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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

便利すぎる都会を離れて、不便のなかに楽しさを知る

便利さと豊かさは、似て非なるものなり

 都会は便利、田舎は不便。確かに、車がなく公共交通機関で旅をしていた頃は、それを事実として痛感していました。
 でも、実際に移住してみると、車とWi-Fiがあれば霧島で不便さを感じることはありませんでした。ネットが発達したことで、その差は縮まっているように思います。
 クラシック好きの親戚や、その紹介で話を聞いた女の子いわく、コンサートやイベントごとが主要都市でしか行われないことへの不満はあるようで、そこに行かないと得られないものの格差があるのはわかります。でも、どうしても行きたいものには距離は関係なく足を運ぶし、その行為自体が楽しくもあります。
 そして、東京では年がら年中そこら中で何かしらが開催されていて、すっかり食傷気味になっていました。毎日のように届くプレスリリースで、様々なイベントの開催がアナウンスされますが、あまりにもその数が多くて、心が浮き立つことも少なくなっていきました。たまにあるからワクワクするわけで、それが日常になると、別に今行かなくたっていいかという気持ちにもなってきます。贅沢な話なのかもしれませんが、ワクワクする気持ちこそが大切なのだと思います。

 以前、富山にあるセレクトショップのオーナーにインタビューをさせてもらったことがあります。その時は、地方では東京で流行ったものが1年遅れでやってくると聞いていましたが、今となっては情報を得るのはどこにいようと同じタイミング。鹿児島にもおしゃれさん達がたくさんいて、思い思いのファッションを楽しんでいます。
 都会じゃなければならないことって何だろう。私の場合は、ほとんどの友達が東京にいるので、確かに気軽に会えない寂しさはありますが、それ以外についてはこれと言って不満に思うことは今のところありません。情報過多に疲れ切っていた私にとって、今は特別に見える特別ではなくなってしまったことよりも、普段の生活自体に心が躍るのでした。

 初めて地方での生活を垣間見たのは二十歳はたちの頃です。当時付き合っていた山梨出身の彼氏の実家に行ったとき、コンビニに車で行かないといけないと知って驚きました。
 近い親戚はみんな東京に住んでいて、その時までコンビニには歩いて行くのが当たり前だと思っていました。今考えると、とんでもない視野の狭さです。その時は、東京に生まれてよかったと心から思っていました。欲しいものはすぐ手に入る場所にあるし、選択肢もたくさんある。便利、最高! 東京、万歳!

 でも、それ以前から何かがおかしいと思うこともありました。恵比寿の駅からガーデンプレイスに続く動く歩道が作られたときです。こんなものがそこら中に作られたら、足の小指はいずれ退化するんじゃなかろうか。今でも、空港で動く歩道を使うことはありません。
 とはいえ、移住したら、もっと歩くものだと勝手に想像していましたが、蓋を開けてみると車移動ばかりでどんどん運動不足になってはいるのですが……。

 そして、年を経るにつれて東京はさらに“便利”になっていきました。東京のマンションから、歩いて行けるコンビニは20軒以上あったと思います。
 電車は5分ごとにやってくるけれど、朝の満員電車はストレスそのもの。渋谷駅はもはや迷路のような状態で、同じような店が入った同じようなビルが、そこら中に建ち並ぶようになりました。
 駅ビルが発達して、駅から離れた場所にあるお店が、少しずつ元気をなくしていったようにも見えます。私が大好きだった個人店は、ひとつひとつと消えていき、どこにでもあるようなお店がその跡地に入りました。
 便利さと引き換えに、何か大切なものを失っていっているような、そんな気持ちにさせられます。

 お付き合いのある企業の方は、東京―大阪間の出張が日帰りになったことを嘆いていました。便利なのかもしれないけれど、これって誰得なんだろう。
 国内出張のとき、私は必ず後泊していました。せっかく行くのに、もったいない。フリーランスの特権です。
 長崎に行けば雲仙の温泉まで足を伸ばし、京都に行けば美山のかやぶきの里まで足を伸ばし、その地その地を楽しみました。
 なんだか、便利になると共に、余裕が削られていくような気がします。便利であることを喜んでいた私は、いつの間にか便利さと豊かさはまったくの別物だと考えるようになりました。
 我が家から一番近いコンビニまでは、以前は歩いて3分、今は車で10分。この7分が惜しいとも思いません。欲しいものも情報もネットで手軽に手に入るし、選択肢は少ないかもしれないけれど、東京での選択肢はむしろトゥーマッチに感じます。
 いずれ、おばあちゃんになって足腰が不自由になったら困ることも出てくるかもしれませんが、今は明らかに霧島での生活のほうが、私には豊かに思えるのです。
「東京は、いずれ見栄っ張りしか住まなくなる」。以前インタビューした林さんの言葉が蘇ります。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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