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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

料理嫌いの女の畑に、次々と野菜が実を結ぶ

乱れに乱れた生活を立て直す太陽の存在

 私の体内時計は30時間ある。そう思わずにはいられないほど、東京での生活リズムは乱れに乱れていました。夜はいつまでも起きていられるけれど、ショートスリーパーではないので、寝ないと辛い。旅行の前日は寝ずにギリギリまで仕事をしてそのまま旅立つのが定番です。
 コロナの前はロケが頻繁にあったので、5時や6時集合という日もざらにありました。カメラマンが日の出を狙いたいと言えば3時集合。一方で、朝まで原稿を書く日もあって、寝る時間も起きる時間も食べる時間も毎日バラバラ。でも、それが苦痛かと言われると、私には合っているようで、体は健康そのものです。
 しかも、旦那が起きるわけでもなく、子どもを起こすわけでもなく、自由すぎるくらい自由なので、その生活習慣を改める機会を見失っていました。
 時間を縛るものは仕事だけ。その仕事をぎゅうぎゅうに詰め込んで、仕事と仕事の隙間に友人との時間や旅の時間をねじ込んで、朝昼晩の概念ではなく、やりたいことややらなければならないことで自分を動かしていました。

 でも、鹿児島に移住して、とうとう私の毎日を縛るものが出てきました。温泉です。
 車で15分の場所にあるベスト・オブ・近所の温泉は21時までで、毎日19時半から21時は温泉タイムに当てられました。東京ではほぼ毎日シャワーで済ませていたけれど、温泉となると話は別です。旅行中と同じように、しっかり入浴時間を確保することにしました。目と鼻の先に愛してやまない温泉があるというのに、入らない人生なんてありえない。そもそも、温泉があるからこの場所を選んだわけで、豊かさを自ら手放すなんて本末転倒です。
 それにしても、我ながらここまで好きだったとは……。もう日常に温泉がない生活は考えられないのでした。

 仕事と温泉だけが私を縛る生活が続いていましたが、春の訪れによって、新たに畑仕事が加わります。雑草が生えだした今はまだ序の口。これから夏に向かって勢いを増し、虫もごまんと出てくるでしょう。雑草を刈って、土を耕して、夏野菜を植える準備に入らねば。
 畑仕事は、太陽が出ている時間しかできません。でも、昼間は仕事がある。あれ、もしかして早起きするしかないのかも?
 田舎のお店が早く閉まる理由がわかった気がしました。私の体は24時間営業の東京仕様で朝も昼も夜も関係ないけれど、ここでの生活は太陽に縛られるんだ。太陽が出ている時間にしかできないことがあるから、早く起きるのが当たり前だし、天気予報も気にかける。
 うーん……、まるで自信はないけれど、やるしかないわな。出版社時代から生活はぐちゃぐちゃで、一時的にどうにか立て直しても、〆切前にまた崩れるを繰り返し、いつか体を壊すんじゃないかと冷や冷やしていた今までの生活。そんな毎日も決して嫌いじゃないけれど、体に支障をきたしてからじゃもう遅い。
 43歳、そろそろ生活を見直す時期にきたのかもしれません。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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