よみタイ

東京と鹿児島の持ち家、二重ローンからの心地よい脱出

目の前には、空っぽの部屋とホットチョコレート

 私のマンションは、今の鹿児島の家と同様、壁を全部取っ払っていて、総柄の壁紙が貼られたところもあれば、好みがわかれる色で塗られた壁もあります。変てこなブロックが貼られていたり、扉に絵が直接描いてあったりと、好きな人は好きだけど嫌いな人は嫌いだろうと容易に想像できる物件です。
 壁紙はそのまま使ってほしいけれど、壁の色は好きに塗り替えても構わないし、釘を打っても構わないし、絵を消してもブロックを取っ払ってもまったく構わない。何よりそういうことを楽しいと思える人に住んでもらいたいと思っていました。
「いろいろリフォームしたいけど、賃貸だとやる気にならないんだよね」という友人の言葉を聞いていたので、そう簡単にはいかないだろうと思っていましたが、きっと、この手の話は巡り合わせ。今回のことは動き出すいいきっかけになりました。

 内見当日、野崎さんは時間通りにやってきて、お土産にめちゃくちゃ洒落たホットチョコレートミックスなるものをくれました。
 今までマンスリーマンションに住んでいたということで、家具や家電を持っていない状態。でも、私の家に残っているのは、マットレスとローテーブル、ビーズクッションに備え付けのデスクと本棚だけ。次の物件が決まるまでの間とはいえ、洗濯機や電子レンジのない暮らしはかなり不便でしょう。
 野崎さんは「広いですね」「公園が目の前にあるって、やっぱりいいですね」と、家は気に入ってくれたようでしたが、部屋のことをひと通り説明し終わると、何か言いづらそうに話し始めました。
 
 私の家に住む可能性が高くなって、野崎さんがその件を管理会社に伝えたところ、2人で住んでいると勘違いしていたと言って、突然、値上げ額を1万5000円に減らすと言い出したのだそうです。ひとり減ったから8万円が1万5000円になる理屈もよくわかりませんが、それにしても故意だとしたらなかなか悪質な話。
 それでも、内見してみたい気持ちも管理会社への不信感もあって、今日ここまでやってきたとのこと。
 次の物件が決まるまでの短期間のために、わざわざ引っ越す必要はなく、しかもマンスリーマンションには家具も家電もすべてが揃っています。そればかりか、プラス1万5000円なら、私が提示した金額よりも安いので、そもそも野崎さんが引っ越す理由がなくなってしまったのでした。
 どう考えてもそのまま引っ越さずに物件を探したほうがいいので、断ってくれてまったく構わないと伝えて、後日連絡をもらうことになりました。

 でも、多分うちに来る時点で野崎さんの気持ちも決まっていたんじゃないかなあと思います。どう考えてもそっちのほうがスムーズなわけで、川村さんの顔もあってわざわざ来てくれたのだとしたら、気を遣わなくても大丈夫なタイプですと伝えたい。
 結局、残念ながら野崎さんが私の家に住むことはありませんでした。これもご縁。
 ふりだしに戻ってしまったものの、やっとお尻に火がつきました。次回、東京に来たとき、今あるものをすべて処分して、クリーニングをいれて、写真を撮って不動産屋さんに相談しよう。
 次回、東京に行くのは恐らく2週間後。仕事の日程が決まり次第、粗大ごみ収集と清掃の予約を入れることにしました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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