よみタイ

シングルおばさん、いよいよ家を買う

効率や便利さに、楽しさが奪われる恐怖

 家のなかをひとしきり観察して満足すると、久保さんが周辺の町を案内してくれるというので、その言葉に甘えることにしました。
 近くのスーパーや、道の脇に置いてある段ボールを捨てるボックス、自治会の集会所、粗大ごみを持っていけるゴミ処理場。今までは徒歩で行けたものも、すべて車に乗らなくては行けません。
 じゃあ、実際に住んでみてこれを私が苦に感じるかというと、いまいちわからないのでした。便利さに溺れた生活をしてきたので面倒に感じるかもしれませんが、それを楽しく思う可能性もあるわけで。
 不便を理由に田舎に住まないのは、なんだか違うような気がするのです。

 効率的になること自体は別に楽しいわけではなく、便利になって生まれた時間をどう使うかで楽しくも苦しくもなるのだと思います。
 賃金が上がらないから空いた時間に別の仕事を! と、副業解禁が進んでいる現実をみれば、別に効率的になったところで、みんながみんな人生を謳歌できるわけではないことがわかります。実際、肌感としては、本来人間を楽にするはずのITが生まれて以降、仕事は忙しくなったように感じます。
 ZOOMの会議は確かに楽だし便利だけど、世間話の時間はすっかり減ってしまいました。私達のような仕事では、その何気ない会話のなかから生まれるものがあるはずなのに、その時間は無駄なものとして排除されていくような、乾いたものを感じます。
 これは、時代についていけないおばさんの戯言なのでしょうか? でも、森永さんが言うように“楽しい仕事を長く続ける”ことが人間の豊かさなのだとしたら、やっぱりその会議自体が楽しいほうがいいなあと単純に思うのです。おばさんの無駄話はいいから、早く終わらせろと言われたら身も蓋もないのですが。
 便利になることで、時間が奪われる――子どもの頃読んだミヒャエル・エンデの『モモ』って、そんな話じゃなかったっけ? 時間どろぼうは、何を忘れていたんだっけ?

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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