よみタイ

人生も美容も健康もちょっと失敗するぐらいでちょうどいい 

 初めてこの店を訪れたとき、「不老不死の薬はありますか?」とふざけた質問をした。怒った素振りなど微塵も見せず「ちょっと待ってね。……ところで、あなたは何歳まで生きたいの?」と聞き返された瞬間、このオヤジとは長い付き合いになるぞと確信した。

 では、そもそも漢方とは何なのか。簡単に調べてみると、「病気」を治すのではなく「病人」を治す医学、「部分」ではなく「全体」を診る医学のことを漢方というらしい。
 頭痛薬を飲んで頭痛だけを治すのが現代医学とするならば、体全体のバランスを整えて症状を緩和させようというのが漢方の考え方らしい。
 と、言葉では何となく理解できるし、データとしても漢方は立派な医学として立証されているのだが、個人的には、ちょっと胡散臭い部分が多くてワクワクが止まらない。

 思い返せば、昔から「胡散臭いもの」が大好きだった。

 誰にでもタネが分かってしまうようなコミカルなマジックを得意とし、その軽薄な雰囲気がクセになるナポレオンズという二人組のマジシャンがいた。
 あるオカルト番組に出演した彼らが、外国からやってきたエスパーが披露する超能力のトリックをいとも簡単に見破り、「私たちはそれを仕事にしてるんです。どうせやるならもっとうまくやりなさい!」と一喝するのを見たとき、「ああ、胡散臭い人ってのは、本当はデキる人がわざとだらしなくやって見せてることもあるんだな。胡散臭いってことはなんて格好良いんだろう」と感動したのをよく覚えている。

 まあ、漢方薬屋のオヤジの場合は、ただ胡散臭いだけなのかもしれないが。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
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(撮影/江森丈晃)

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