2022.7.31
化粧水を買うのは、エロ本を買うよりちょっとだけ恥ずかしい
ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。『クラスメイトの女子、全員好きでした』をふくむ3か月連続エッセイ刊行など、作家としての夢をかなえた著者が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったくその分野には興味がなかったのに、ひょんなことから健康と美容に目覚め……。
初回はイントロダクション。連載タイトルの「午前三時の化粧水」に出合うエピソードから!
(イラスト/山田参助)
第1回 太っちょゴブリンと化粧水
抜けるような青空の下、公園のベンチに腰掛けた私は、大好きなコーラをラッパ飲みしたあとに、小さなゲップをひとつ、ふたつ、みっつ。
原稿を書き上げたあとの達成感、自分の本が書店に並んでいるのを見たときの感動など、作家業を営んでいて幸せを感じる瞬間は数あれど、平日の昼間から悠々自適に日向ぼっこをキメられること以上の喜びを私は知らない。
目の前を勢いよく駆け抜けていく学校帰りの小学生の群れ。「子供たちよ。よく遊び、よく学べ。人生は意外となんとかなるもんだ」と、心の中で無責任なエールを送っていると、私から一定の距離を取ったところに集まり始めた小学生たちが、こちらを指差して口々になにかを言っている。
「太っちょゴブリン、今日もいるね」
「毎日コーラ飲まないと死んじゃうのかな」
私は大きくて長~いゲップをひとつ。
家に帰ってから、風呂場の鏡で己の姿を確認してみる。全体的に顔色が悪い、充血した瞳、目の下のクマ、顔のむくみ、テカテカの肌、乾燥してカピカピになった唇。この見るも無残な形相に、身長170センチ足らず、体重120キロの肥満体と坊主頭が合わされば、見事な〝太っちょゴブリン〟の出来上がりである。そうか、私は知らないうちにゴブリンになっていたのか。
昼前に起きて午前三時に就寝、遅筆ゆえに徹夜も多い不規則な生活。ストレスのぶつけ先は「食」に向かい、一日の食事はカレー、カレー、シチューといった具合に乱れきっている。堕落こそ芸の肥やしとまでは言わずとも「四十過ぎのひとり者ゆえ改善の必要なし」という甘えの集大成が、この有様である。かといって、今の自分の風貌をそこまで嫌いにはなれない。これはこれで人生の悲哀が滲み出ていて味があるじゃないか。
「太っちょゴブリン」
純粋ゆえに残酷な子供の言葉がボディブローのようにじわじわと効いてくる。うん、なんとなくこのままではいけない気がしてきた。
しかし、〝太っちょゴブリン〟とは、なかなかセンスのある悪口だ。デブや化け物といったありがちなワードを使わずにゴブリン。どうか、その豊かな感性だけはこれからも大切にしてもらいたい。
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