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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」

田中けん(42才)vs田中けん(54才)! 候補者顔写真取り違え! 投票率は約20%の大幅減少! 静岡4区補欠選挙は私たちに何を教えてくれたのか

同一選挙に同姓同名を立てる「奇策」の先

もうひとりの「田中けん候補(54才)」の立候補届出手続きをするN国の立花孝志党首。(撮影/畠山理仁)
もうひとりの「田中けん候補(54才)」の立候補届出手続きをするN国の立花孝志党首。(撮影/畠山理仁)

 田中けん候補(42才)が敗戦の弁で述べていたように、この選挙には、もう一つ「異例の事態」が起きていた。
 野党統一候補の田中けん候補(42才)とは別に、NHKから国民を守る党(N国)が田中けん候補(54才)を立てていたからだ。

 同一の選挙に同姓同名の候補が立候補した例は過去にもある。その時は住所や年齢で区別できるような対策が取られていた。しかし、今回のN国が異例だったのは、選挙戦術として同姓同名の候補を立てたことだ。

 さらに異例だったのは、N国の田中けん候補(54才)が選挙中に一度も選挙区に入らなかったことである。現地に入って立候補届出の手続きをしたのはN国の立花孝志党首。N国の「田中けん候補(54才)」は選挙活動をすべてインターネット上で行った。
 ポスターもなし。選挙公報もなし。有権者の中には、N国からも同姓同名の候補が出ていることがわかりにくいようになっていた。
 立花党首はこれを意図的にやっていることを認め、さらに不敵な戦略を明かした。

「大切なのは今回の補選ではありません。次期総選挙で今の安倍政権を交代させること。我々は今の安倍政権は明らかにおかしいと思っているので、そこを弱体化させるための選挙戦を考えています。次回の総選挙では、自民党の候補と同姓同名の候補をN国党から立てたい。すでに、4人の深沢陽一さんを見つけています」

 立花代表の次の一言を聞いて、私はさらに驚いた。

「今回は事前に『同姓同名の候補を立てる』と発表していましたから、相手候補も『42才』を強調して対策を取っていた。次回は完全極秘で当日に選管に持ち込みます。安倍晋三さんとか麻生太郎さんとか。これを全国でやります」

 選挙を冒涜している、という批判も当然起きた。N国の戦略を「選挙妨害だ」と批判する有権者の声を私も直接聞いた。私も従来のモラルを逸脱した奇策だと思う。しかし、現行制度上では「合法」なのだ。

 同一選挙に同姓同名の候補が出た場合、投じられた一票がどちらの候補への投票かを判別するのが難しくなる。そのため、選管では「年齢」や「党派」で区別して確定する対応をとった。同姓同名候補が出ることを事前に知らされていた田中けん候補(42才)の陣営は、街宣車やたすき、選挙公報に「42才」と書いていた。同姓同名候補と混同されないように、事前に対策を取ることができたのだ。もし、N国が何の予告もなく同姓同名の候補を立てていたら、有権者はもっと混乱していた可能性がある。

 年齢や党派を記載せず、単純に「田中けん」と書かれた票は、確定票の比率に応じて「按分」された。つまり、有権者が候補者の区別をしっかりつけていないと、自分の推す候補の票が減ってしまう可能性がある。
 N国の立花党首は、開票日に4時間以上にわたってYouTubeで生配信を行った。視聴回数は5万8千回以上。これは当選したふかざわ候補や田中けん候補(42才)が選挙中にアップした動画を遥かに上回る視聴数だ。
 有権者がボーッとしていると、大変な状況がやってくるかもしれない。

N国の田中けん候補(54才)のポスターはなかった。(撮影/畠山理仁)
N国の田中けん候補(54才)のポスターはなかった。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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