よみタイ

『日本列島全員立候補』か『日本列島全部無投票』か。どちらの未来を望むのか?

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。前回の第1回は、「政治家にとって都合のよいお客さん」になっている現状についてのお話しでした。今回は、架空の小説『日本列島全員立候補』とリアルなノンフィクション『日本列島全部無投票』の両極の話から選挙のリアルを考えます。

2019年参議院議員選挙。大きな話題になった「NHKから国民を守る党(N国)」の開票センターにて。彼らの戦術とは!?(撮影/畠山理仁)
2019年参議院議員選挙。大きな話題になった「NHKから国民を守る党(N国)」の開票センターにて。彼らの戦術とは!?(撮影/畠山理仁)

スポーツ同様、政治も競技人口が増えればレベルは上がる

『日本列島全員立候補』──。

 もしも私が小説を書くことになったら、タイトルはこれにしようと決めている。被選挙権を持つ日本国民全員(公務員除く)が選挙に立候補し、誰もが当選を目指して悪戦苦闘するストーリーだ。

 きっと、どこの出版社からも出ない。でも、日本国民全員が立候補したらどうなるのか?

 まずは立候補の届け出自体に時間がかかるため、選挙管理委員会の前には順番を待つ徹夜組の列が出現する。届出順を決めるくじ引きも一苦労だ(くじ引きの順番を決めるくじ引きもあるため2回行われる)。選挙ポスターを作る印刷業者も立候補するから、各々が自撮りのポスターを作り、自宅のプリンターで印刷することになる。

 街中に設置されるポスター掲示板は、「万里の長城」のように延々と続く長い壁としてそびえ立つ。自分のポスター掲示場所を探すのが面倒になり、他人の掲示場所に貼ってしまう人も多数出現する。人のポスターを勝手に剥がすことはできないから、まずは選管に連絡し、間違えて貼った人がポスターを剥がすのを待たなければならない。自分の場所が空いた時にポスターを貼るのも自分自身だ。

 街中を走っているのは、パトカーか手作りの選挙カーしかない。選挙カーが選挙カーに向かって「うるせえ」とマイクで言い合う。

 駅前は街頭演説する候補者であふれ、候補者が候補者に投票を呼びかける。通り過ぎるのは、25歳以下または30歳以下の若者。自分のチラシを配りながら他の候補者のチラシを受け取り、気に入らない候補者のチラシは道に捨てる。しかし、ほとんどの人が候補者だから、街が汚れても構っている暇はない。ゴミとなったチラシを片付けるのは、被選挙権を持たない若者や子どもたち──。

 そんな世界はいやだなぁ、と思う人が大半だと思う。しかし、実際の候補者は全員が似たような壁を乗り越えて立候補し、選挙戦を戦っている。

 こんな現実がやってくることは到底考えられない。しかし、みなさんも一度は真剣に「自分が選挙に立候補する可能性」を考えてみてほしい。

「自分が立候補しても、誰からも相手にされないのではないか」
「自分の考えを他人に伝えるためにはどうしたらいいのか」

 きっと、誰もが深く悩むはずだ。そして、「自分は立候補できない」という結論に至る人も多いだろう。もちろん、そう思ったら、立候補しなくていい。立候補する自由もあれば、立候補しない自由もある。それが今の日本の民主主義だ。

 それでも、一度、「もし、自分が立候補したら」と考えるだけで、選挙に対する見方は確実に変わる。なかには「やってやるか」と思う人もいるはずで、それこそが希望の種だ。

 そうやって、選挙に立候補する人の数が多くなっていけば、世の中は大きく変わる。スポーツでも、競技人口が増えればレベルは底上げされる。今の日本の政治は、まだまだ競技人口が少なすぎると私は思っている。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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