よみタイ

CITY BOYおじさん 湖畔でデュアルライフはじめました。

都会育ちが田舎暮らしを選ぶとき、「寂しさ」をいかに処理するかが肝

東京出身者が自然や闇に対して感じる畏れのようなもの

『湖上』と題された中原中也の詩があります。
とっくの昔に著作権が切れているポエムなので、全文を掲載しましょう。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

沖に出たらば暗いでせう、
かいから滴垂したたる水の音は
昵懇ちかしいものに聞こえませう、
――あなたの言葉の杜切とぎれ間を。

月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇くちづけする時に
月は頭上にあるでせう。

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言すねごとや、
洩らさず私は聴くでせう、
――けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

ああ、なんて素敵なんでせう!
こんなロマンチックな純愛は遥かな過去に置いてきたおっさんでも、まこと心に響くものがあります。
しかし同時に、真夜中の湖に二人きりで小舟を漕ぎ出すなんて、さぞ心細いだろうなと思わざるを得ません。

自然は美しいがときに畏れも感じる。
自然は美しいがときに畏れも感じる。

湖上の小舟遊びは、とても楽しいものです。
せっかく湖の近くに家を持っているのだから、僕も近いうちに手頃なカヤックかSUPを買おうと考えています。
でも自家用カヤックやSUPを入手したとしても、ポッカリ月が出る深夜に湖の沖へ出ることはないと思います。
妻であれ娘であれ犬であれ他の誰かであれ、たとえ道連れがいたとしても。真っ暗で静寂に包まれた湖上は、たまらなく怖いはずなのです。

湖の沖にレンタルボートで漕ぎ出すと、明るい昼間でさえも、なんとも言えないおそれを感じることがあります。
山に囲まれた湖の水底をじっと覗きこむと、土地に長く封じられている魔力のようなものを感じ、背筋がゾクッとするのです。

11月が過ぎて12月になると行楽客の姿も減り、山中湖村はシンと静かな空気に包まれます。
最近ではこの静けさも良きものと感じられるようになりましたが、最初の頃は、合宿の学生でにぎやかな夏が終わり、紅葉目当ての行楽客が押し寄せる秋が過ぎて初冬を迎える頃になると、強い寂寥感せきりょうかんを覚えることもありました。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

週間ランキング 今読まれているホットな記事