よみタイ

都会育ちが田舎暮らしを選ぶとき、「寂しさ」をいかに処理するかが肝

東京生まれ、東京育ちの“シティボーイおじさん”が、山中湖畔に中古の一軒家を購入! 妻、娘、犬とともに東京←→山梨を行き来する2拠点生活=「デュアルライフ」をはじめました。 音楽や読書など山の家での趣味活動から、仕事やお金のやりくりといった現実的な話題まで、 著者が実体験したデュアルライフのリアルを綴ります。 別荘暮らしが優雅な富裕層の特権だったのはもう過去の話。 社会環境や生活スタイルが大きく見直されている今、必読のライフエッセイです。

デュアルライフを選択したのは、収拾がつかなくなった荷物も理由の一つ

『となりのトトロ』は紛うかたなき名作で、僕もジブリの中では一番好きな映画です。
でも、とても引っかかる描写があります。
冒頭、サツキとメイとおとうさんは家財道具一式を積んだオート三輪に乗って田舎道を進み、引っ越し先の家へと向かいます。
ただ省略されているだけなのかもしれませんが、一家の荷物が映るシーンはそれだけ。あまりに少なすぎるとは思いませんか?

草壁家のおとうさん、草壁タツオは大学で教鞭きょうべんもとる学者です。学者先生の引っ越しが、小さなオート三輪一台で済むわけがないのです。
メイがトトロと出会う日。おとうさんが部屋で仕事をしているシーンを見ると、書斎の壁は本で埋め尽くされています。
こんなに大量な書物の移動には、大変な労力と積載能力の高いトラックが必要なはずなのです。

多すぎる持ち物が問題なのだ!
多すぎる持ち物が問題なのだ!

我が家も同じです。
結婚後、2回引っ越しをしましたが、そのたび大騒動になりました。
一番問題となるのはいつも僕が溜め込んでいる本で、前回は確か段ボール100箱以上になりました。
本をぎっしり詰めた段ボール箱はとても重く、引っ越し屋泣かせです。業者さんは大編成でやってきて、汗だくになりながら段ボールの積み込みをしてくれるので、とても頭が下がります。

僕は大学を卒業して出版社に就職するとき、一つの誓いを立てました。
自分でお金を稼ぐこれからは、欲しいと思った本を躊躇ちゅうちょなく買うこと。
その誓いを頑なに守り、この30年間弱どんどんどんどん買いました。
最近は電子書籍を選ぶことも多くなり、増殖ペースはひと頃と比べればだいぶ穏やかになりましたが、やはり実体のある紙の本を手にしたいという願望を断つことはできず、いまだじわじわと増えています。
しかも、一度入手したものはよほどのことがないと手放さない悪癖のため、本当に床が抜けないかと心配になるほど、我が家には本がいっぱいあるのです。

デュアルライフ計画を実行に移したのは、このどうにも収拾がつかない本の置き場になるかもしれないと思ったことも大きな理由です。
実際には様々な制約や家族の抵抗もあり、現状のところ山の家に持ち込めているのは、全体のごく一部。
でもいつかは庭に小屋でも建て、自分だけの書庫を作ろうと計画しています。

その話はまた別の機会に譲るとして、今回の本題はなぜ我が家が山中湖のような観光地をデュアルライフの場として選んだのかという話です。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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