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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」

夜な夜な眠りを妨げる過去の自分の発言-今夜も枕に顔をうずめて吐息をつく

 私がすべきだったのは、彼女と子どもの間に入ってあげることだった。彼女に連絡を入れ、私が子どもを見ていてあげるから、一人でゆっくりしておいでと言ってあげるべきだった。彼女に必要だったのはアドバイスなどではなく、共感と一人で過ごす時間だったのだ。長々と偉そうに助言を与えるのではなく、いつでも話を聞くから、電話しておいでと書いてあげるべきだった。なぜ当時の私には、それがわからなかったのだろうとずっと考えている。先輩だと思って偉そうに助言していた私も、もしかしたら後輩と同じ悩みの中でもがいていて、自分を見失っていたのかもしれない。

 そんなことを思い出して、考えれば考えるほど、次々と反省すべき点は出てくる。「双子育児って大変ですよね」と聞かれると、待ってましたとばかり、「ハイッ!! 死ぬほど大変です!」と鼻息も荒く答えていた自分に反省を促したい。そこは、「とても大変ですから、助けを求めて下さい。すべて自分でやろうとは思わずに、頼ることができるものはすべて頼って下さい」と冷静に言うべきなのだ。決して、おむつは数千枚費やしたとか、ミルクは箱買いだったとか、武勇伝を語るべきではないのだ。反省を促したい。大事だから二回書きました。

 なぜ、もっと優しさをもってアドバイスできなかったのか。これから父になる人から来たメールには、「ぜったいに育児に参加して下さいネッ!!!! 本気で参加して下さいよッ!!!! なぜかというと……」と、延々と先輩風をふかしていた。先輩を通り越してモンスターだ。そんな自分を夜な夜な思い出し、つらく、恥ずかしい思いをしている。取り消したい発言ばかりである。人にはやさしく。相手の立場に立って。これから先も忘れないようにしていきたい。

 私をこんな気持ちにしてくれたのは、実はこの一冊だった。本人の『こうしておれは父になる(のか)』である。新しい書棚に入れる本を選ぶときに久しぶりに手に取って、再読した。はじめて読んだときは、「フフフ、がんばってますねえ~」と、これまた先輩風がビュンビュンだったのだが、今になって読んでみると、なんと、涙がこぼれるのである。ああ、生きるというのは、こういうことなのだとしみじみとする。家族を築きあげていく喜び、育児への戸惑い。軽快な文章で綴られる著者の言葉は、とんでもなく面白いのに、なぜか感動的で泣けてしまう。この家族を応援したい、幸せを見届けたい、そんな気持ちにさせてくれる。男性が綴った育児エッセイのなかで、私が最も好きな一冊だ。新米お父さんとお母さんには是非お勧めしたい。

本人・著『こうしておれは父になる(のか)』(イースト・プレス/2019年8月)
本人・著『こうしておれは父になる(のか)』(イースト・プレス/2019年8月)
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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』(CCCメディアハウス)、『村井さんちの生活』(新潮社)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』など。
家族の実話を描く書き下ろしのエッセイ『全員悪人』が4月27日に発売される。

ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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