よみタイ

日々食べる分を量る

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 朝は炊きたて御飯と具沢山の味噌汁。定番で入れるものはほとんど乾物で、新型コロナウイルス感染拡大の時期も、家にあるストックを使えば、特に買い物をする必要がなかったので、これは助かった。常備している乾物は、切り干し大根、国産大豆が原料の極小こうや。これは高野豆腐を六ミリ角ほどに細かくカットしてあり、そのまま味噌汁や煮物に入れられるので重宝している。
 他には乾燥キクラゲ、乾燥わかめ。冷凍しているしめじ、油揚げを入れるのが基本である。それにブロッコリー、ナス、根菜、葉物野菜でも、残っているものは適当に何でも鍋に入れる。そして適当に水を注ぐ。だいたいこんなものでいいかで、分量も済ませている。
 基本の食材は絶対に入れるけれど、あとは季節に応じて、オクラが入ったり、カボチャやサトイモ、サツマイモが入ったりする。なぜこうなったかというと、いちいち献立を考えるのが面倒くさいので基本形を作り、そこに食材を加えていく方式にしたのだ。乾燥キクラゲなど、体にいいといわれているのに、おかずとしては食べにくいものは、すべて味噌汁に入れることにした。
 冷蔵庫に中途半端に余っているものが何もないときは、基本形だけである。出汁については、こちらもいちいち引くのが面倒くさいので、近所のスーパーマーケットで見つけた、「粉かつお」と、いわしの削りぶしの「さらさらいわし」を使う。それらをひとつまみずつと、味噌を汁椀に入れて、鍋に入れた味噌汁の具が煮えたら、汁ごとざっと汁椀に注ぐ。そしてぐるっとかきまぜて終わりである。きちんとした料理の手順から相当はずれているかもしれないが、この程度の手間で済ませているから、面倒くさがりの私でも、ずっと作るのが続いているのだろう。そして朝食後には必ず、リンゴかキウイフルーツといった果物を食べる。
 昼間はいちばんボリュームが大きい。肉を食べるので、ここでもきっちりと量る。豚肉は五十グラムから百グラム、鶏肉は百グラムから百四十グラムにしている。赤身肉は週に五百グラム未満がいいと知って、何となく一日これくらいの量が適正であろうと判断した。玉ねぎ、ニンジン、キャベツなどの野菜は必ず使うが、こちらも目分量で済ませている。卵も昼に一個食べる。
 国産のしいたけと昆布のだしパックを破り、中の粉を適当にフライパンに入れ、味付けは醬油を約十八センチの長さのディナースプーンに一杯。そこに野菜や肉がかぶるくらいの水を注いで、煮立った後に卵を割り入れて、汁がなくなるまで煮る。御飯には味がついていない海苔を一枚の半分添えて食べる。昼でほとんどの栄養を摂取しようという魂胆である。
 夜は魚を食べる。トマトソースを使った蒸し料理で、玉ねぎ、小松菜は決まっている。なるべくたくさん野菜を食べたいので、ブロッコリー、ナス、ズッキーニ、パプリカ、セロリなども加える。たまにジャガイモも入れる。魚は生鮭、化学調味料不使用のツナ缶、食塩不使用のサバの水煮缶、でたタコ、ホタテのうち一種類を使う。一時期、とろけるチーズなどを加えていたが、飽きてしまったので最近はやめている。
 野菜と魚介のトマトソース蒸しといった感じなのだが、去年の夏は、冷ややつこにオリーブオイルと、きちんと作られた塩を振って食べるのにはまってしまい、蒸し料理に加えて、ひと月の間、ずーっと食べていた。オリーブオイルを口にすると、ぴりっとするものがあり、変質しているのかと思っていたら、それが良質なオリーブオイルの風味なのだと、料理好きの友だちが教えてくれた。
 彼女はフルタイムで働きながら、毎食のおかずは四品ずつ必ず作るというつわものだ。娘さんには毎朝お弁当を作り、同居している父親には、彼の好みに合わせた料理を作る。娘さんとは味の好みが違うので、それぞれに作っていると、
「どんどん品数が増えちゃうのよ」
 という。私だったら面倒くさくなって、
「どっちかが妥協してよ」
 といいたくなる。しかし少しだけ困ったものだとは思うけれど、料理が好きだから苦ではないという。自炊をしながらも、ずーっと面倒くさいが頭にある私とは正反対である。
 私が自炊をやめないのは、どういう材料を使って、どういうもので味をつけた食事かを確認したいからだ。自炊だったら食材、調味料はすべて自分で選んでいるので、他人が食べたときの味の保証はないが、安心はできる。自分で何を食べているか、知りたいからだ。外食は月に一、二回、あるかどうかだが、そのときは割り切ってそんなことは考えずに食べる。そういうときは、絶対に自分では作れないものが食べられるので楽しんでいる。友だちともたまに外食をすることがあるが、私はただ、
「おいしい」
 といって食べるだけなのに、彼女はどうやって作るのかを、必ずたずねる。お店の人も親切に教えてくれるので、それを家に帰って再現してみるのだそうだ。
 彼女が料理を作りすぎたからと、私にお裾分けをしてくれることがあるのだが、それもアワビのおかゆとか、ルーを使わないグリーンカレーなど、家庭料理とはいえないランクのものばかりだ。新しい料理に挑戦するときも、調味料などはすべて目分量で入れるので、わざわざ量らないという。そんな料理上手の人の言葉を聞くたびに、「量らない」という言葉は、人によって本当に様々なのだなあと、私は深く反省するのである。

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次回は9月11日(水)公開予定です。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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