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「色即是空」をギャルで説明してみたら、あらゆる存在が「SHIBUYA109」になった

坊主なのに煩悩まみれ。 そんな俗世と浄土を行き来する、ユル〜い僧侶・稲田ズイキがお届けする仏教トーク。 聞いたことはあるけど詳しく知らない仏教の知恵を、罰当たりなくらいポップにわかりやすく変換していきます。

ギャル。この世にはギャルという存在がある。

派手な髪色、カラコン、ネイルに、しっかり引いたアイライン。幼稚園児が描いた太陽のようなつけまつげ。
そう、誰もが想像できる、あのギャルである。

しかし、2500年前から現代まで「ギャルは本当に存在するのか?」と疑い続けている者がいる。それが仏教である。

たしかに、目の前にギャルはいる。ギャルギャルしく存在している。
しかし、それは本当に「ギャル」という「実体」が存在しているのだろうか

仏教が出した結論とは、ギャルは「存在する」ともいえるし、「存在しない」ともいえること。
すなわち、ギャルは「くう」ということであった。

「色即是空」をギャルで説明してみる

色即是空しきそくぜくう」。

仏教用語の中では「諸行無常」と同レベルといえるほど有名なもので、例えば、『クレヨンしんちゃん』の野原家の掛け軸に書かれていることでも知られている。

そんな「色即是空」は、みんな大好き『般若心経』の中に出てくるフレーズである。
『般若心経』とは、仏教の根本思想ともいうべき「空」の思想を、最大限に煮詰めてつくりあげられた究極の262文字であり、その中でも「色即是空」は『般若心経』のセンターともいうべき言葉だ。(ここらへんについては少し前回でも書いたので、ぜひご参照いただきたい。)

漢文を書き下しにしてみれば「色はすなわちこれ空」。
つまり、意味的には「色は空だよ」ということだ。

簡単に説明するなら、「色」は「形あるもの」を意味し、「空」は「何もない」を意味する。
要するに、色即是空とは「形あるものは何もない」ということを説明しているのである。

「なんだ簡単じゃん〜!」と呆気なさを感じるかもしれない。
言葉にすれば簡単。しかし、その内容(特に「何もない」)はその言葉では収まりきれないくらいの深みがある。

もし本当に理解できたのなら、僕もただちにでも今の師(父)を捨てて、あなたに弟子入りしたいくらい。
「空」というのは、2500年の仏教の歴史で、名だたる僧たちが緻密に分析してきて、それでもなんだかよく分かっていないくらい深遠な概念なのである。

そこで、今回はその「色即是空」のニュアンスを伝えるため、一つの物語をご用意した。
それが「ギャル」の存在のありかを考えるショートストーリー『ギャル即是空』である。

第一章「ギャルは無常に」

SHIBUYA109。目の前には「ギャル」がいた。

黄金色に輝く巻き髪。カラコン、ネイルに、しっかり引いたアイライン。幼稚園児が描いた太陽のようなつけまつげ。手には、BACKSのショップ袋を携えている。
そして、今、目の前を通り過ぎようとしている瞬間、鼻を刺すドルガバの香水の匂い。

間違いない。ギャルだ。
推測は確信に変わり、僕はギャルに背後から声をかける。

「ねぇ、そこのギャル〜! 今から一緒にお茶しない?」

ギャルは僕の声に反応して振り返り、こう言った。

ウチは『ギャル』と世間に呼ばれてるけど、それはあくまで呼称・記号・通念であって、それに対応する実体はマジ存在しなくなくなくない?

第二章「メンディーなギャル」

耳を疑った。

SHIBUYA109でギャルをナンパし続けて、早5年。
「キモい」「ウザい」と断られることは、当たり前。

「ウチは『ギャル』と世間に呼ばれているけど、それはあくまでも呼称・記号・通念であって、それに対応する実体はマジ存在しなくなくなくない?」

初めて提示されたカオスなリアクション。
新種のナンパ防止策なのか?

つまりは「ギャルに対応する実体は存在しない」と言いたいのだろうか。
「何を言っているんだこいつ」そんな思いが脳内を占有したが、ナンパ師としての動物的本能だけが会話を続けていた。

「何言ってんの、オネエさんはギャルじゃん〜! 俺そういう哲学?みたいな話好きなタイプだからさ、今からそこのカフェで話さない?」

ギャルは眉一つ動かさず、口をパクパクと動かしていく。

『ギャル』ってゆう名前はあるけど、『ギャル』ってゆう実体はなくない? お兄さんが言う『そこのギャル』って何指してるの? マジやばたにえんの無理茶漬けなんだけど

面倒くさいギャルだった。
最近、哲学の本でも読んでいるのだろうか。「実体」とか日常用語で使わないだろ、普通。
なんにせよ、おかしくなってきて、会話を続けていた。

「おネエさんみたいなのがギャルじゃなかったら、この世のギャルがみんなギャルじゃなくなってしまうよ。ってか、そんなことどうでもいいからさ、そこでお茶…」

お兄さんがウチをギャルと認識すればギャルかもしれないけど、『ウチ=ギャル』ってゆう実体は証明できてないからね。まあ、なんつーかあれだね、お兄さんまじメンディーだね

総じて、面倒くさいギャルだった。
もしかして、本当は「清楚系」として見られたくて、「ギャル」を否定したいのだろうか。メンディー(面倒くさいの意)なのはお前だろと言ってやりたい。

だが、この時僕は、まさか目の前のギャルが「悟りの境地」にいたことなんて、知る由もなかったのだ。

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稲田ズイキ

いなだ・ずいき●僧侶。1992年京都の月仲山称名寺生まれで現・副住職。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる「煩悩クリエイター」として活動中。コラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画しています。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。Twitter @andymizuki
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竹内佐千子

たけうち・さちこ●漫画家。おっかけ対象が男子で恋愛対象が女子のレズビアン。
自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子、などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描いている。
赤ちゃん本部長』(講談社)、『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(ぶんか社)など。
ホームページhttp://takeuchisachiko.jp/
Twitter @takeuchisachiko

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