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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

楽器音痴でも楽しめ、持っているだけで気分が上がるブルースハープ

高校・大学時代、それに社会人になってからもバンドをやってきたけど、僕は楽器が弾けない。
なぜならボーカルだったから。
でも、歌もたいしてうまくない。
なぜなら入口がパンクだったから。

高校一年生のとき、趣味と気が合う仲間とバンドを組むことになり、パート決めをした。
僕がボーカルを任されたのは、剣道部だったからだ。
「大声で叫ぶの、慣れてるでしょ」と。
パンクバンドだから、肝心なのは歌心よりもシャウト力だったのだ。

ボーカルだったからといって、楽器を弾けないことの言い訳にならないのはわかっている。
ボーカルも楽器を弾けた方がかっこいいし、バンドの音も厚くなる。
実は僕も何らかの楽器を弾いてみたいと思い、幾度か密かに練習したのだが、そのたびに挫折した。
どうも、歌も楽器も才能は乏しいようなのだ。

残念だ。

哀愁を帯びたハーモニカの音色を聴けば、コロナ疲れの心が癒される

そういうわけで我が家の中には、ろくに弾けない楽器が死屍累々。
アコギ、ウクレレ、コルネット、それに以前このコラムで紹介した、数々の奇妙な楽器たち……。

ろくに弾けないとは言っても、どれも一通り練習はしたので、基本的な音の出し方は分かっている。だから、ときどき気まぐれに触っている。
人様にお聞かせできるようなものではないが、本人的にはそれだけで十分楽しかったりする。
でもいずれ楽器教室に通い、どれかは完全にものにしようとも思っているのだ。
それが老後の楽しみである。

最近よくいじっている楽器は、一般的に“ブルースハープ”と呼ばれる、10穴の小さなハーモニカだ。
正確にいうと“ブルースハープ”というのは、アメリカの老舗ハーモニカメーカー、ホーナー社の商品名。
それが代名詞化しているけど、僕が持っているのはホーナー社でブルースハープに次いで名の知れた、木製ボディのクラシカルなハーモニカ「マリンバンド」だ。
昔から多くのブルース、フォーク、ロックミュージシャンに使われてきた名機である。
金属板部分に刻まれた文字や模様も雰囲気があって、手に持って眺めているだけでいとおしい気分になってくる愛機・マリンバンド。
もちろん、ろくに吹けませんけど。

でもごくシンプルな構造の10穴ハーモニカは、勘で吹けばそれなりの曲になるのが良いところだ。
ビリー・ジョエルの「ピアノマン」のイントロなんて、すぐに真似できてしまう。
僕のような楽器音痴でも大丈夫だ。

そしてYouTube動画で本物のハーピストの演奏を聴くと、なんでこんなに単純な楽器でここまで多彩な音が出せるのだろうかと驚く。
その域に達するには、才能と相当の練習が必要なのだろうな。
僕が目指したいのはサニー・ボーイ・ウィリアムソンのような渋く枯れたブルースだが、実現するのはいつの日やら。

取りあえずいまは、夕暮れ時なんかに小さな音でそっとマリンバンドを吹くと、心が落ち着き、癒される気がするのです。
コロナ疲れなのかもしれない。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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