2019.6.27
思慮深く謙虚なシェフが送り出す絢爛たる美味に首ったけ〜ボッテガ〜
笹川さんはパスタを手打ちと決めています。
常時5種類のパスタを用意していますが、その日の天気や気温によって何にするか決めるそう。
そして手で回すパスタマシーンを使って、生地を触りながら自分の手の感覚を信じて作る。ソースとの相性を考えて粉の配合、乾燥のさせ方、生地の厚さなどをミリ単位で変えるという本当に緻密で繊細な作業。まさに工房にいる職人さんです。
例えば、本日いただいた「トンナレッリ」は一切乾燥させない。日本は湿気があるのでこのくらい太いパスタだと、完全に乾燥しきれず表面はカチカチで中は半生という状態になり、茹で上がりの食感が劣るのだとか。だから、オーダーが入ってから手打ちするそうですが、あの満席状態でよくそんな面倒なことをするな、と感心してしまう。
でもすべては目の前にある食材をよりおいしくして、お客さまに自身が出来得る最高のものを食べてもらいたいという笹川さんの想いがそうさせているのです。
なんて素敵な料理人生なのでしょうか。
そのトンナレッリを使った料理がこちら。
トマトベースのカルボナーラと言えばわかるでしょうか。
「完熟トマト、パンチェッタ、卵黄で和えたトンナレッリ(2,400円)」は笹川さんがトスカーナのトラットリアで食べたソースだそう。卵黄の甘み、うまみ、まろやかさがトマトソースをこんなにも格上げするのかという絶品パスタです。トマトの酸味、パンチェッタの塩味、卵黄の甘み、バジルの香り、中に入れたペコリーノロマーノと上から削りかけたパルミジャーノそれぞれのコク、そしてブラックペッパーがピリッと味を引き締める。
もうね、口の中が楽しくて楽しくて。
食べている間、ずっとウキウキしてるってすごいことですよね。
こちらの黒毛和牛はローストしてマルサラ酒と仔牛のジュ、豚のスネ肉などからうまみを取り、マスタードとブラックペッパーを混ぜ、甘さと辛さが調和したソースとともにいただきます。
上からイタリア産の夏トリュフを削って仕上げますが、季節によって白トリュフや冬トリュフに変えることで、定番メニューとして存在しています。トリュフによってソースの酸味やうまみの利かせ方を変えているそうです。
使う部位はいろいろ試した結果、「シンシン」を使っているそう。
信じられないほどお肉がやわらかくて、噛まずにして肉汁が感じられます。滋味あふれる和牛の脂も味もこのソースが包み込み一体となって喉を通る。
おいしいなんてもんじゃないおいしさです。
香りづけはもちろんトリュフ!
これ以上でも以下でもない完璧な量を削りかける笹川さんは、もし「あ、削りすぎちゃった」なんてことがあったら、顔色は変えないけど気持ちは結構凹んでしまうってタイプかな。お話を伺っていると、そんな気がします。
なぜそう思うか知りたい方は、ぜひお店に行ってカウンターの上の棚に並ぶ本を見てください。そのラインナップからは、イタリア料理を極めたいという想いがいっぱい伝わってきます。
15歳から入ると決めた料理人生。料理しかないと言い切る笹川さんの歴史を垣間見ると、どうしてこんなにおいしく作れるのかわかります。
料理だけじゃない、スタッフさんの対応も素晴らしいのです。
取材した日も私が到着したらビシっとセッティングされている。何も言っていないのに撮影準備を完璧にしてくれていたのです。
そういう相手の望むことを考える姿勢は、サービスのすべてに反映されているので、よっぽどフォーマルな会食以外は誰にでも自信を持ってご紹介しています。
笹川さんにとって料理とは「やりがい」だそうです。
好きな職に就けることができ、日々の勉強によって自分が成長し、お客さまに「おいしい」と言ってもらえる。それはやりがい以外何ものでもなく、大変だけど自分は本当に恵まれているとおっしゃいます。
「でももし20年前に戻れたら同じ道に進むかはわかりません。だって知らない世界だったから続けてきたけれど、知っていたら考えますよ」と笑って話す笹川さん。そんなことを言いながら、料理人を続けるためにランニングをしたり、本を読んだりしてベストな状態でいられるよう、努力しているのです。
上京して19歳でイタリア料理に一目惚れし、23年経った今も毎日探求し続けている笹川さんの「ボッテガ」。ここで作られる料理に魅了された人々が今宵も訪れるのです。
もちろん私もそのひとり。