2025.1.10
私たち生命は太陽フレアがあったから誕生できた? リスクだけじゃない、その大いなる役割とは?
この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。
連載でも何回か太陽フレアについて紹介しましたが、2025年はいよいよその規模がピークになると言われています。
様々なリスクがまず気になる点ではありますが、今回はちょっと視点を変えて、太陽フレアが果たしたと考えられている大きな役割について。
人間にとってのメリット、デメリットを超えた存在に宇宙の壮大さを改めて感じます。
第29回「太陽フレアと生命」のはなし
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リスクだけじゃない、太陽フレアが果たした役割とは?
2024年は太陽フレアの存在を非常に実感しやすい1年でした。テレビのニュースなどで太陽フレアに対する注意喚起が発せられる状況を見るのは、私も新鮮で驚きでした。5月と11月の2回、東北と北海道を中心にオーロラが見えるというなかなかレアなニュースで記憶している人も多いかと思います。
この連載でも繰り返し、太陽フレアの怖さや今後より注意していかなければいけない点を「宇宙天気」という分野と合わせて紹介してきました。太陽を含めた宇宙で起きるフレア全般を研究していた私にとっても、記事の執筆と現実の出来事を一緒に経験できたことは非常に有意義でした。
危険性ばかり触れられる太陽フレアですが、実は非常にロマンに溢れた過去を持っている可能性が出てきました。
それは、オーロラよりも素敵な出来事です。
なんと、私たち人類が生まれるきっかけを作ったのが太陽フレアなのではないかというものです。そこで今回は、科学研究の分野で太陽フレアが生命誕生にどう関わっていると考えられているかを紹介します。
宇宙の研究で今最も注目されているのは「地球以外の星に生命はいるのか?」という大きな問いです。この1つ前の記事でも、太陽系の中で生命探査を進めている話を紹介しました。加えて5,500個以上の太陽系以外の惑星も見つかっていて、とにかく生命に対する期待が高まっているんです。
探求すべきテーマは、「生命がどこにいるか」だけではありません。「生命はどうやって誕生したのか?」も非常に重要です。実際、地球にいる私たちのような生命がどのように誕生したのかすら、まだわかっていません。
では、地球に生命が誕生するためには何が必要なのでしょうか?
生命誕生のために必要な三種の神器とも言われているのが「水・有機物・エネルギー」です。地球上に水は存在していたとすると、エネルギーも地熱や太陽光など様々なところから得ることができます。ただ、生命の基本的な構成要素であるアミノ酸や、核酸の材料となる有機物がどうやって生成したのかが大きな謎でした。この難問を解く手がかりの一つとして浮上したのが、太陽フレアです。
若い頃の太陽は、現在よりも活動が活発で、頻繁にスーパーフレアを放出していたとされています。このエネルギーが初期地球の大気に影響を与え、生命の材料を作り出したというのが最新の研究の仮説です。
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