2024.12.13
『チ。―地球の運動について―』が100倍面白くなる、宇宙観測の歴史と今
この連載では、独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わった経験と、天文学分野で博士号を取得した知見を活かし、最新の宇宙トピックを「酒のつまみの話」になるくらい親しみやすく解説します。そして、宇宙と同じくらいお酒も愛する佐々木さんが、記事にあわせておすすめの一杯もピックアップ。
今回は、漫画の原作が話題になり、NHKやNetflix、ABEMAでも配信中の「チ。 ―地球の運動について―」をピックアップ。作品の魅力に触れながら、偉人たちがつないできた宇宙観測の歴史に触れます。
第27回「『チ。』と宇宙の観測の歴史」のはなし
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偉人たちによる地道な天体観測が、新しい常識を作った
ここ数年、宇宙の話題を世の中でよく耳にする気がします。日本の月面着陸成功や、太陽フレアによる日本でのオーロラ観測など、多くのニュースがありました。
こういった実際のニュースがなくても、宇宙は私たちを魅了し続けてきましたが、その神秘や、壮大さを伝えてきたものの一つが小説や映画などの「SF作品」です。この連載でも映画『インターステラー』や『三体』といった作品を紹介してきましたが、また新たな作品が注目を集めています。『チ。 ―地球の運動について―』です。
漫画の連載開始から4年、2024年10月からアニメの放送がスタートしました。地球や人間が宇宙の中でどういう存在なのかという哲学的な問いや、地球が宇宙の中心と考える天動説から、太陽を中心とする地動説へと認識が変わる流れが描かれています。宗教などの歴史的背景と科学観測のせめぎ合い、人間ドラマも詰まっていて、秀逸な作品です。
実際の歴史がベースになっているこの作品。今回は現実世界で歴史を変えた天文学者らの活躍と、その中心にある「観測」が持つ力について紹介します。
さっそくですが「地球は、宇宙でどんな動きをしていると思いますか?」と聞かれたら、どう答えますか?
この問いには全員が「太陽の周りを回っている」と答えると思います。ただ、これは歴史上常にそう考えられていたわけでありません。
今から約500年前、15世紀頃までは地球が宇宙の中心で、太陽や他の惑星は地球の周りを回っていると考えられていました。
これが「天動説」です。逆に、地球が太陽の周りを回っていると考えるのが「地動説」です。地動説は今や常識になっていますね。
天動説から地動説に論説が変わっていく過程は、決してスムーズではありませんでした。天動説が1000年以上支持された要因の一つは、キリスト教が天動説を支持していたこともありました。この時代では、宗教と科学が密接に結びついていたため、天動説を疑うことは許されませんでした。この宗教の思想によって弾圧されながらも、地動説を説く人々を描いているのが「チ。-地球の運動について-」です。
ゆるぎない常識だった天動説に疑問を持つトリガーとなったのは、現代の天文学でも重要な「天体観測」でした。
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