2023.11.10
始まりはなんと1892年!「月に水はある?ない?」論争の歴史を知っていますか?
アポロ計画のサンプルから水素が発見される少し前、2007 年に JAXA は「かぐや」という月を周回する人工衛星を打ち上げました。このミッションを経て、水が存在している可能性のある月の永久影を観測した結果をまとめた論文が2008年に発表されます。この論文では残念ながら水の直接的な証拠を提示することができませんでした。しかし、この時は月面に氷が表出した状態で存在しているのかを人工衛星で確かめることが目的であり、それが確認できなかっただけなのです。この結果、観測領域では氷は月の表面には露出していないことがわかり、月の砂の下に埋もれている可能性が残されることになりました。
2009年以降は、水の存在を支持する結果が続々と出てきます。記憶に新しい発見も多く、宇宙好きの人は覚えている人も多いかもしれません。2009年にNASAの2つのミッション「月クレーター探査衛星 LCROSS」と「月偵察衛星 LRO」が打ち上げられました。LCROSS の実験は非常に大胆で、その手法は水がありそうなクレーターに向かって弾丸を放ち、その噴き出た破片の中を飛行しその物質を測定するものでした。その観測によって水の存在が確認されます。その後、LCROSSはその衛星自体も月に体当たりして、破片を撒き散らします。そしてその破片をLROによって観測することで、地下に隠された水を確認することにも成功しました。このNASAの取り組みによって、水の存在証拠はさらに増えます。
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これだけでなく、これまでの観測領域よりも広い範囲で水が発見できる可能性も出てきました。これまでは永久影の水の探査が行われてきましたが、2009年にアメリカ・インドの複数のミッションによって行われた人工衛星による観測で、太陽に照らされた領域で水の存在を示唆する結果が出ました。これによって、月の水は永久影だけでなく、全面で発見できるのではないかと期待が高まっていきますが、観測精度の問題で、発見された物質が本当に水なのかどうかは断定できませんでした。そこから月日が経ち、2020年。ジェット機を使ったNASAの観測ミッション「SOFIA」によって、太陽に照らされた面にも水があることが確認され、月面での水の存在は局所的なものではないと認識され始めています。
1892年から始まった月面の水の存在証明。ないと思ったらあったり、あると思ったらなかったり、毎回水の存在のヒントを得られるのは人類の持つ科学技術のギリギリの挑戦でした。宇宙へのチャレンジが加速する昨今において、これからも新たにわかることが多くありそうです。2030年代にはアメリカをはじめ、さまざまな国が月面基地の建設を目指しています。日本を拠点に世界で活動する宇宙スタートアップ企業のispaceは2040年に月面都市を作り上げる 構想を掲げています。さらには月にとどまらず火星に人類が降り立つ未来も見えてきています。これまでの120年とは比べ物にならないスピードで進んでいく宇宙開発から目が離せません。これからの連載では、そんな最先端の話をつまみに、お酒を飲みながら語っていきます。
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次回連載第2回は11月24(金)公開予定です。