2021.1.3
草食動物界の超エリート! 今年の干支「ウシ」はものすごい生き物だった!
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。
前回は、クリスマスシーズンに活躍するトナカイの生態について科学的な視点から解説しました。
今回は、今年の干支である「ウシ」の生態に着目します。
動物の専門家も注目する牛の生態
みなさま、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、早速ですが、今年の干支は「ウシ」。
私はいつも「ウシってすげぇ!」と、尊敬の眼差しで見ています。
まわりにも、ウシやウシの仲間について熱く語ってくる専門家が何人もいます。
一体ウシの何がそんなにスゴイのか、今回はその生態や進化について解説したいと思います。
ウシのスゴさ1:動物界随一の消化能力がある
ウシは草食動物です。
草を主食とする動物は他にもたくさんいますが、実は、草というのは、多くの場合、食料として全く優秀ではありません。エネルギーとなる栄養分はほとんどなく、大部分を占めるセルロース(繊維質)はほぼ消化できずにそのまま体外に出てしまいます。
だから、大型の草食動物の場合、その体の生命活動を維持するためには、大量の草を食べ続ける必要があります。動物園にいるパンダがいつも竹を食べているのはそのため。非常に効率が悪いのです。
では、それでもなぜ多くの動物が草を主食にしているかというと、大量に生えていて確保が容易だから。その1点に尽きます。
しかしウシは、植物のエネルギーを効率よく吸収できる、驚くべき消化機能を持っているのです。
その秘密は胃にあります。ウシの胃袋はなんと4つ。
第一胃(私も大好き、焼肉のミノです)と第二胃(焼肉のハチノス)にはたくさんの微生物が共生しており、微生物がつくる分解酵素によって食べた植物の繊維を分解していきます。要するに、発酵タンクのようなものです。
みなさん、ウシがモグモグと口を動かしているのを見たことがないでしょうか。
あれは、第一胃もしくは第二胃と、口の間で食べ物の吐き戻しを繰り返す「反芻」という行為の最中です。反芻を繰り返すことで、繊維を破砕したり、微生物と繊維をよく混ぜ合わせたりすることができます。つまり、反芻とは口と胃と微生物の間で繰り返し行われる、分解の共同作業なのです。
第三胃(焼肉のセンマイ)は洗濯機でいうなら脱水層。圧力をかけて脱水をします。
最後の第四胃(焼肉のギアラ)が、私たち人間の胃と同じように胃液で食べ物を消化する場所です。
しかし、ウシの場合、第四胃に食べた草が運ばれてくる頃には、すっかり繊維質は分解されていますから、ここでは食物繊維によって培養された微生物が胃液に消化され、それがウシの大きな体を動かす栄養となって吸収されます。
ちょっと汚い話で恐縮ですが、馬糞には、たいていたくさんの草の繊維質がそのままの形で混じっています。実物を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
ウマの場合、胃ではなく腸で食物繊維の分解をするため、反芻もできず、少ない量しか分解できません。だからせっかく食べた草も全ては消化できず、そのまま出てきてしまうのです。
しかし、同じ草食動物でも、ウシのウンチはドロっとしていて、繊維質の跡形もありません。これはつまり、ウシが食べた草を微生物との共同作業で完全に分解して、消化吸収できているということです。
さらに、ウシの第一胃は巨大で、発酵のみならず貯蔵タンクのような役割も果たしています。
つまり、ウシは自らの消化器官最前方で大量の食料を貯蔵しながら、反芻によって発酵を超効率的に行うことで、その養分を余すところなく取り入れることができる、非常にエネルギー効率の優れた生き物なのです。