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草食動物界の超エリート! 今年の干支「ウシ」はものすごい生き物だった!

ウシのスゴさ2:足首が滑車構造になっている

動物には、距骨きょこつと呼ばれる、脚の骨と骨をつなぐ骨があります。
ウシの距骨は上下が滑車のような形になっており、これによって人間でいうところの足首の関節が前後にしか動かせなくなっています。
人間のように足首をひねったり、回転させたりはできません。
これは「二重滑車構造」と呼ばれていて、大地を力強く駆けることができる仕組みです。

草原風景では、身を隠すところは少なく、敵となる肉食動物を見つけ次第走って逃げるしかありません。その際に、距骨の二重滑車構造は大いに役立ちます。
ウシにはのんびりとしたイメージを抱いている人が多いかもしれませんが、闘牛を思い浮かべていただくとわかる通り、実は優れたランナーなのです。

ウシとクジラの祖先は同じ

こうした「複数の胃」と「距骨の二重滑車構造」は、ウシをはじめとする偶蹄ぐうてい類の動物に共通する特徴でもあります(ただし、胃については一部を除く)。
偶蹄類は、ほとんどの場合、中指と薬指の2本指がひづめです。蹄の数が偶数なので「偶蹄」。
この偶蹄類には、ウシの他に、カバ、ラクダ、イノシシ、シカ、トナカイ、キリン、ウシ、バイソン、ヤギ、ヒツジ、ガゼル、カバなど実に多種多様な動物が含まれます。

現生種は200種を超えており、大型の草食獣のほとんどが偶蹄類の動物
草食獣としては大成功を収めている最大派閥です。
食って走って、走って食って、生存競争を勝ち抜いてきたのでしょう。
それだけウシやその仲間たちは、生物として優秀な体の構造を持っているともいえます。

距骨の二重滑車構造は、偶蹄類や足があったクジラ類の祖先以外には見られない構造。(イラスト/大渕希郷)
距骨の二重滑車構造は、偶蹄類や足があったクジラ類の祖先以外には見られない構造。(イラスト/大渕希郷)

さらに近年の研究では、ウシをはじめとする偶蹄類とクジラ類が近縁にあることが明らかになりました。

クジラ類にはかつて(約5300万〜3300万年前)四肢があったのですが、その頃のクジラ類の化石を調査したところ、距骨がウシと同様に二重滑車構造であったことが判明したのです。
これは、偶蹄類と足があったクジラ類の祖先以外の動物には見られない特徴です。
また、あまり知られていませんが、クジラ類にも胃袋が複数ありますし、偶蹄類とクジラ類の遺伝子配列が似ていることもわかっています。

つまり、ウシとクジラは共通の祖先を持つということが証明されたのです。
近年では、「鯨偶蹄類くじらぐうているい」とまとめられるくらいです。
ちなみにクジラ類は80種くらいいますから、ウシの仲間は陸だけなく、海でも大成功したといえるでしょう。

いま現在生息している偶蹄類の中では、カバがもっともクジラ類に近い。(イラスト/大渕希郷)
いま現在生息している偶蹄類の中では、カバがもっともクジラ類に近い。(イラスト/大渕希郷)

そんな鯨偶蹄類の中でも、特にウシは、家畜として人間に非常に身近な存在です。
お肉をとるための肉用牛、牛乳をとるための乳用牛、両方ができる乳肉兼用種。あるいは力仕事をしてもらう役牛。数えきれないほどの品種があります。
言い換えれば、生物として優秀だからこそ、どんどん家畜化が進み、世界中の人々の生活を支えてくれるようになったといえるかもしれません。

●主な参考文献
遠藤秀紀(2002年)「哺乳類の進化」東京大学出版会

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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