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やってはいけない!? 「トカゲの尻尾切り」に潜むリスク

トカゲ釣りのコツ、教えます

トカゲ釣りのハイシーズン(大渕の経験談)は2つあります。
ひとつは冬眠明けで、かつ、繁殖期にあたる3~4月。この時期のトカゲは、気温の上がる午後によく釣れます。
もうひとつは、7~9月。この時期の日中は暑すぎるので、涼しい午前中や夕方がねらい目です。

なぜ5〜6月が外れるのかというと、この時期は、メスは卵を抱いていて地上に出てきません。
ニホントカゲの仲間は、トカゲ類でも珍しく卵の世話をするのです。
オスや子どもはもちろん卵の世話をしませんが、梅雨時はそもそもひっこんでいることが多いので釣りには適さないというわけです。

卵の世話をするのはトカゲ類の中でも珍しい。
卵の世話をするのはトカゲ類の中でも珍しい。

上記のハイシーズン、時間帯で日当たりのよい場所を探せばトカゲは市街地でも見つかりますが、大切なことはトカゲに気づかれる前に見つけること
こちらが先に発見されると、逃げられてしまいます。これがとても難しい。
慣れれば、トカゲの視線や気配を感じられるようになった人もいます。私もその一人です。

トカゲの尻尾は栄養を蓄える重要な場所

そもそも、なぜトカゲを釣り竿で「釣る」のかというと、他の捕獲方法に比べて尻尾が切れにくいからです。
尻尾が切れてしまうと、研究用に全長を計測できません。
研究では、頭の先からお尻の穴(正確には総排出口そうはいしゅつこう)までを体長、尾の先までを全長として計測しますから、できれば尾は切れない方がいいです。

トカゲというのは、危険が迫ると尻尾を切り落として逃げる習性を持っています。
事件や不祥事が起きた際に組織のトップが立場の弱い人をスケープゴートにして責任逃れをすることを「トカゲの尻尾切り」とたとえることもありますね。

だからトカゲの尻尾は「大して重要ではないもの」と思われがちなのですが、これは大きな間違い。
人間の場合、太るのはお腹まわりからですが、トカゲの場合は尻尾から太ります。
つまり、トカゲの尻尾は栄養を蓄える重要な場所でもあるのです。

子供のトカゲの尻尾は青く目立っています。
外敵の意識を目立つ尻尾に向けて、いざという時は尻尾だけ切って逃げるためです。
尻尾は、骨にある切断面でカッターナイフのように切れ、切断面は筋肉が収縮することですぐさま止血されます。
切り離された尾の方は、しばらく勝手に動き回りますから、敵の目をあざむいてくれます。
その間に、本体は逃げるわけです。

ニホントカゲの仲間は成長とともに色や模様が変わっていく。
ニホントカゲの仲間は成長とともに色や模様が変わっていく。

しかし、大人になると、次の世代をつくるためたくさんの栄養を尻尾に貯めています
せっかく貯めた栄養はできるだけ守りたい。だから、尻尾は目立たず背景に溶け込むような色に変わります。体全体が茶色になるわけです。
尻尾を切ることもできますが、そのような身代わり戦法よりは背景に溶け込んで隠れたり、走って逃げたりに戦法を変えるわけですね。

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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