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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」
不惑が間近に迫る年齢になりつつも、変わらず戦い続ける1980年生まれのアスリートたちに、スポーツライター二宮寿朗氏が迫るこの連載。サッカー中村憲剛選手、バスケットボール田臥勇太選手に続く、3人目のアスリートは、東京ヤクルトスワローズの館山昌平投手。初回は日大藤沢高校に進学するまで、をお送りしました。今回は、いよいよピッチャーとして成長し、同じ神奈川県の怪物、松坂大輔と対決するまでに成長した高校時代についてお伝えします。

“日大藤沢100カ条”で成長した館山昌平は、いかにして松坂大輔と戦ったのか!?

室内練習場にて。ここでも独自の観察眼で、フォームを確認しながらひたすらスローイング練習をこなす。(撮影/熊谷貫)
室内練習場にて。ここでも独自の観察眼で、フォームを確認しながらひたすらスローイング練習をこなす。(撮影/熊谷貫)

第1条は『野球とは移り変わる状況判断と個人プレーの結集』

人には「運命の出会い」というものがある。

館山昌平にとって日大藤沢高との出合いがなければ、松坂大輔との出会いもきっと色合いが違ったはず。
中学では県大会に出ていなければ、センターが自分のポジションだった。しかし「ピッチャーをやってみないか?」の声に、思い切って神奈川県内の強豪校“ニチフジ”に進学を決める。
頭脳派ピッチャーの基礎は、ここで叩き込まれることになる。日大藤沢との出会いがなければ、日大藤沢高エースとしての松坂大輔との出会いがなければ、今の館山は存在しなかった。

野球の真の心得なくして、務まらず。

日大藤沢野球部には、100カ条からなる“教え”があった。誘いの声を掛けてくれた鈴木博識監督が心得から作戦まで野球の極意をまとめ上げていた。鈴木監督はこの年から日大野球部の監督に就任して高校を離れていたものの、理念はしっかりと受け継がれていた。

雨の日は100カ条をもとにした座学が中心になる。新入部員は100ページのノートにこれを書き込み、5月までに終わらせなければならなかった。

野球は得意でも、座学は苦手という部員は結構いたに違いない。だが15歳の館山は、100カ条を学ぶことが「面白くて仕方がなかった」という。

「その第1条は『野球とは移り変わる状況判断と個人プレーの結集』。そのときどきに自分ができる個人プレーを、9人とベンチメンバーの力を合わせてやるスポーツなんだよと、教えてくれています。上級生から代々受け継がれている教えもあれば、自分で思ったこともノートに付け足していい。その作業が楽しくて。守備のシフトや、ボークに関する規則とか野球にかかわる細かい部分まで学ぶことができました」

部員100人、全員横一線で練習する。キャッチボールもノックも、平等だった。メンバーに選ばれていようがいまいが、同じように扱われた。大所帯のためA班、B班に分けられていても、固定はされない。トスバッティングが良かったら、ロングティーが良かったら、つまり日々の練習で成長を示すことができたらいつでもチャンスを与えられる環境にあった。

心得と作戦の座学と、横一線の競争。
もともと観察力に長け、努力型の館山にとって、日大藤沢の気風は合っていた。いや、これほどまでにマッチングしたことが、急激な成長を呼び込むことになる。

いずれベンチ入りできればいいと思っていたのが、当初の目標。
ピッチャー志望の選手たちが他のポジションに回されていく幸運もあったが、ここでも一つの出会いがあった。控えのキャッチャーで、一つ年上の「堀内センパイ」。

「堀内さんは何人ものピッチャーの球を受けなくてよかったので、僕の練習にずっと付き合ってくれたんです。ボール2個分の的をつくって、ここに投げなさいと。単純かつ明確な目標を、1球ずつ与えてくれました。ボールが2、3球、浮き上がってしまったら、投球練習を中断するんです。『ケツからボールが出てきていない』と、僕のところまで来て、『体を支えてやるからケツから降りてこい』とフォームを修正してくれました」

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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