2023.4.12
Twitter文学、それはもう一つのChatGPTである──統計的に確からしい地獄絵図『本当に欲しかったものは、もう』書評
人間とGPTの最大の違い?
そんな地獄絵図だが、なぜか我々は読み入ってしまう。登場人物のあらゆる属性は、もっとも確からしく、生成的AI的であるのに。この本のために書き下ろされた『トベッ! ハヤク! トベヨォッ! 』(山下素童)などはその好例だ。新宿の寿司屋で上司と飲んでいた30歳の男が、「しわくちゃになったティッ シュ1枚を手にした、ペニス丸出し」の状態になるまでの数十分を描いているのだが、一文一文は「もっとも確からしく」、ごくごく自然に思える。だが気がつくと、我々読者は駐車場の白いアルファードの裏でペニスをしごき続ける男と対峙している。これ以上の内容開示は控えるが、下品な小説を読みながら笑いをこらえたのは、中学校一年生の時に読んだ筒井康隆ぶりな気がする。局所的には共同幻想を駆り立てながらも、大域的には予定調和をぶっ壊しにいけるのが、人間とGPTの最大の違いなのかもしれない。少なくとも2023年4月時点では。
ここでひとつ告白しなくてはいけないことがある。私はこれまで書評というものを書いたことがない。なのにいきなり22作品も詰まったアンソロジーについて考察することになってしまった。22作品全てに言及する必要はないですよと編集者の方は言ってくださったのだが、やはり共通のテーマみたいなものについては考えざるを得ない。そしてそれは何かというと2020年代前半の日本の時代精神なのだと思う。年々さびれていく出身地の地方都市と、一生かかっても遊び尽くせない花の都大東京のコントラスト。少子化の一途なのに、いや少子化の一途だからこそ過熱する中学受験の不条理。敷かれたレールの上を生真面目に歩いてきて、人生折り返し時点で振り返った時に感じる虚無感。ツイッタラーたちの高感度の光学センサーが捉える都会人たちの悲哀には、GPT-4には醸しだせないうす汚いリアルタイムのリアリズムを感じる。General Pretrained TransformerならぬGenerational Poignant Tweetsが本作品を可能にしている。
とはいえ、AIもこれから文字通り日進月歩を続けるだろうし、Twitter文学にAIが参戦する日も遠くないのかもしれない。ただシリコンバレーの非モテ特有の聖軍的倫理観を反映した人工知能に、駐在とタワマンを人生のマイルストーンに据えた日本のアッパーマス層の哀歌が書けるようになるには、まだまだ時間がかかるような気がするのだ。
……と思い、GPT-4に窓際三等兵とは何か訊いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
窓際三等兵とは、職場で仕事にあまり関与せず、出世も望めない立場にいる人のことを揶揄した言葉です。彼らは大抵、組織の中で目立たず、周囲から忘れられがちな存在になってしまっています。窓際三等兵たちは、毎日同じように過ぎ去る時間に息苦しさを感じることもあるでしょう。しかし、その一方で、彼ら自身が新たなチャレンジを試みたり、自分の可能性を信じることで、窓際から離れ、新しい道を切り開くこともできるでしょう。窓際三等兵たちには、まだ見ぬ自分の才能や可能性に気づくチャンスが待っているかもしれません。
前言撤回、AIはもうすぐそこまで来ているようだ。それでも我々は今日も押し寄せるテクノロジーの波に逆らい、俺たちのリアルを探しにツイッターのTLに向かう。やりがいのある仕事に就きながらもどこか満たされない心の穴を、限りなく近くて遠い都会の群像劇で満たすために。「まだ見ぬ自分の才能や可能性に気づくチャンスが待っている」第二、第三の窓際三等兵に出会うために。
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