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『立川志の輔独演会〜おかえり気仙沼2025〜』へのプライベート旅で志の輔師匠を直撃。「来年も来られるように1年をすごそうと思わせてくれる落語会です」

聞けなかった質問と取材者の妄想回答

『立川志の輔独演会〜おかえり気仙沼2025〜』は、14時半の開演から約2時間半、爆笑のうちに幕を閉じた。志の輔さんが演じたのは『三方一両損』『壺算』の2席。枕と呼ばれる導入からラストまで、観客の笑い声が止まらなかった。それでいて、すっと身が引き締まった思いがしたのは、最後に志の輔さんによる3本締めがあったからだろう。万感の想いを込めて、3本締めに参加させてもらったのは、19分11秒のインタビューの最後に語ってくれた志の輔さんの言葉を思い出していたからだ。

「気仙沼は不思議な場所になりました。日本中のどんな場所より元気な空気で迎えてもらえるんで、妙な錯覚に陥るんです。なんだか、こっちが元気をもらいに来たような気がしてね。きっかけを作ってくれた糸井さんにはいまでもずっと感謝していますし、あれから10年以上たったってことは10歳以上、歳をとったってことでもある。でも、歳をとったから弱っていくんじゃなくて、逆にここで元気をもらって来年もまたここに来られるよう1年をすごそうと思う。そんなことを思わせてくれる落語会は、日本中探したってそう多くはありません。というより、ここ気仙沼が、まず、ナンバーワンでしょうね」

一夜明けて、6月22日の日曜日。ぶらり旅は続く。昨日の会場で再会できた「つばき会」メンバーに教えてもらったSUPの大会をのぞきに、大島までぶらり。その流れで大島を散策していると、「漁師カレンダー」で取材させてもらった漁師さんに偶然の再会を果たせたりした。

最終日。ぶらりと行ってしまったのが申し訳ないくらい本格的な大会だった『SUPA公認大会 Moku Nui Paddle Challenge2025』は、気仙沼大島の小田の浜ビーチで開催されていた。
最終日。ぶらりと行ってしまったのが申し訳ないくらい本格的な大会だった『SUPA公認大会 Moku Nui Paddle Challenge2025』は、気仙沼大島の小田の浜ビーチで開催されていた。
遊覧船が発着する「気仙沼大島ウェルカムターミナル」にて。とれたてのウニの体験試食はなんと100円!
遊覧船が発着する「気仙沼大島ウェルカムターミナル」にて。とれたてのウニの体験試食はなんと100円!

ぶらり旅が終わり、帰りの新幹線でぼんやりと考えていたのは、志の輔さんに聞けなかった別の質問についてだった。取材用のメモには、こんなふうに書かれている。

Q.縁についての持論はありますか?
→選んでいる? 選ばれている?

抽象的すぎて、本番前の5分から10分で聞くことじゃない。そう判断して見送ったけれど、早送りですぎ去る車窓の景色を眺めていたら、なぜか志の輔さんの〝妄想回答〟が聞こえた気がした。

「ご縁とは不思議なものですね」

なぜ、そんな妄想回答が思い浮かんだのかといえば、19分11秒の間に、志の輔さんは5回も「不思議」という言葉を繰り返したからだ。しかも、そのすべてが肯定のニュアンスで語られていた。たとえば、落語の魅力についてはこう言っていた。

「江戸時代の中期にこんな不思議なものをこしらえた人がいて、それが令和のいまにまで続いて、ますます栄えてっていう。ありがたさと不思議さを感じます」

2025年6月の2泊3日のぶらり旅は、あいかわらずの食いしん坊旅でもあったけれど、忘れられないのは気仙沼市民会館の一体感だ。旅人も地元の人も、気仙沼にゆかりがある人も、落語好きの人も、もしかしたらたまたまだった人も。演者も観客も主催者という裏方も、立場や肩書きなど一切関係なく混ざりあった、不思議な2時間半であった。

ぶらり旅と幸運にも時を同じく開催されていたイラストレーター山本重也さんの個展「気仙沼の小さな風景画365点」にも訪れることができた。2年前に気仙沼に移住した山本さんは毎日1枚、気仙沼の風景を描き続けている。写真の2024年8月7日は、拙著の表紙撮影ロケハン時の様子である。
ぶらり旅と幸運にも時を同じく開催されていたイラストレーター山本重也さんの個展「気仙沼の小さな風景画365点」にも訪れることができた。2年前に気仙沼に移住した山本さんは毎日1枚、気仙沼の風景を描き続けている。写真の2024年8月7日は、拙著の表紙撮影ロケハン時の様子である。
『海と生きる』刊行特集一覧

【「海と生きる」プロローグ試し読み】 気仙沼の自称「田舎のおばちゃん」集団が、なぜ日本を代表する写真家たちと『気仙沼漁師カレンダー』を作れたのか?

【「海と生きる」1章前半試し読み】 「まだまだ気仙沼は大丈夫だ」、震災2日後にそう信じることができた白い漁船

【「海と生きる」1章後半試し読み】 「クリエイティブってなんだべ」の初プレゼン。感涙の『気仙沼漁師カレンダー』第1作が完成!

【タカザワケンジさん書評】 主役の「気仙沼つばき会」と漁師に、写真家が加わったことで奇跡的な「物語」になった

【畠山理仁さん書評】 すべての人は縁をつなぐために生きている。そんな読後感をもたらす一冊だ

【幡野広志さん書評】 モノを作る仕事をしたり、写真に関心がある人はとくに読んでもらいたい

【唐澤和也さん旅エッセイ】 写真家・藤井保を訪ねて島根・石見銀山へ。東京・祐天寺から“ほぼ発売日”に『海と生きる』を届けに行ってみた。

10名の写真家のフォトもカラー収録!

藤井保・浅田政志・川島小鳥・竹沢うるま・奥山由之・前康輔・幡野広志・市橋織江・公文健太郎・瀧本幹也――日本を代表する10名の写真家が撮影を担当し、2014年版から2024年版まで全10作を刊行。国内外で多数の賞も受賞した『気仙沼漁師カレンダー』。

そのきっかけは、地元を愛する女性たちの会、「気仙沼つばき会」の「街の宝である漁師さんたちを世界に発信したい!」という強い想いだった。本人たちいわく「田舎の普通のおばちゃん」たちが、いかにして『気仙沼漁師カレンダー』プロジェクトを10年にわたり継続させることができたのか。被写体となった漁師、撮影を担当した10名の写真家、「気仙沼つばき会」ふくむ制作スタッフなど徹底取材。多数の証言でその舞台裏を綴る。元気と感動と地方創生のヒントも学べるノンフィクション。

10名の写真家が選んだカレンダーでの思い入れの深い写真や、単独インタビューも掲載。写真ファンにとっても貴重な一冊でもある。

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新刊紹介

唐澤和也

からさわ・かずや●1967年、愛知県生まれ。 明治大学卒業後、広告代理店勤務を経てフリーライターに。
単著に『負け犬伝説』『マイク一本、一千万』(ともに、ぴあ)、 企画・構成書に、爆笑問題・太田光自伝『カラス』(小学館)、 田口壮『何苦楚日記』(主婦と生活社)、 森田まさのり『べしゃる漫画家』(集英社)などがある。

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