2024.12.12
モノを作る仕事をしたり、写真に関心がある人はとくに読んでもらいたい―写真家・幡野広志が読む、唐澤和也『海と生きる』
第3弾は写真家・幡野広志さん。『気仙沼漁師カレンダー』の撮影を担当した10人の写真家のひとりであり、また著述業でも多くの著作をもつ幡野さんの書評を、ぜひご一読ください。
(構成/「よみタイ」編集部)
本気でモノをつくる人の話だが、『海と生きる』自体も本気でつくられた本なのだ
気仙沼には美味しいカツオやサンマがある。目黒のさんま祭りでふるまわれているのは気仙沼のサンマだ。すこしめずらしいものでメカジキもある。メカジキのハーモニカの煮付けは絶品だ。
高級食材のフカヒレは気仙沼産が世界最高品質と評価されるほどだ。ぼくはそんなに美味しいとは思わないけどホヤもある。ホヤはご当地キャラクターのホヤぼーやになっている。
勝負できる名産品がいくつもあるけど、気仙沼の女性たちは世界の人に気仙沼の漁師を知ってもらおうとカレンダーをつくった。
発案した女性たちは撮影や出版などについてはまったくの素人集団。著名な写真家たちに撮影してもらい、10年分の『気仙沼漁師カレンダー』を制作した。
経済産業大臣賞を4つ、ドイツのグレゴールカレンダーアワードで銅賞を受賞している。カレンダーにもかかわらず東京都写真美術館に全10作が蔵書されている。
見事に世界の人に気仙沼の漁師を知ってもらえたわけだ。素人集団かもしれないけど、本気で取り組んだ結果だ。すごい快挙だ。
『海と生きる』は素人集団の女性たちがいろんな人の力をかりて、たくさんの人の微力を集め強力なカレンダーを作った話だ。
著者の唐澤さんは『気仙沼漁師カレンダー』ではライターとして携わっていた。取材者としての外側からの視点と、制作者としての内側からの視点がおりまざった本になっている。
唐澤さんの取材と文章から気仙沼への敬愛を感じる。モノを作る仕事をしたり、写真に関心がある人はとくに読んでもらいたい。
ぼくは7作目にあたる2021年度のカレンダーを撮影した写真家だ。ぼくが撮影をしたころには漁師カレンダーがすでに気仙沼で広く認知されていたので、撮影はスムーズにすすんだ。
『海と生きる』を読んで初期のころは胃がヒリヒリするような大変さだったことを知った。前任の方々が積み重ねた信用に、すこしまた信用を上乗せして次につなげるような仕事だった。
気仙沼の漁師というテーマで10人の写真家が撮影したわけだけど、それぞれの性格の違いと被写体との向き合い方の違いや、思考が写真に反映されている。
『気仙沼漁師カレンダー』で撮影したたくさんの写真のストックがある。ストックの写真を『海と生きる』の表紙に使えばコストを抑えることができる。
それに誰の写真を使っても文句なく素晴らしい写真になるだろう。にもかかわらず『海と生きる』ではまたあらたに木村伊兵衛賞作家の岩根愛さんを起用して表紙の撮影をしている。
コストだけでなく、スケジュールや天候のリスクを考えたら普通だったらまずやらない。これだけでも『海と生きる』が勝負にでたことがわかる。
『海と生きる』は本気でモノをつくる人の話だけど、『海と生きる』自体も本気でつくられた本なのだと思う。
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藤井保・浅田政志・川島小鳥・竹沢うるま・奥山由之・前康輔・幡野広志・市橋織江・公文健太郎・瀧本幹也――日本を代表する10名の写真家が撮影を担当し、2014年版から2024年版まで全10作を刊行。国内外で多数の賞も受賞した『気仙沼漁師カレンダー』。そのプロジェクトの10年以上にわたる舞台裏を綴るノンフィクション。
10名の写真家が選んだカレンダーでの思い入れの深い写真や、単独インタビューも掲載。写真ファンにとっても貴重な一冊。また木村伊兵衛賞受賞の写真家・岩根愛の撮りおろしによる本書のカバー・表紙にも注目。
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