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なぜ男は「ゴム無し無責任射精」にとらわれてしまうのか?【藤澤千春×山下素童 射精責任対談】

「生でやりたい」という社会的欲求はなぜ生まれる?

山下 『射精責任』の主張って、めちゃくちゃシンプルだと思ってて。妊娠・出産っていうのは経済的にも身体的にも女性のリスクが高いし、最終的に射精の決断を下すのは男性なので、男性が避妊をちゃんとしましょう。すごい便利で安く手に入りやすい避妊具であるコンドームがあるから、それを使いましょう。っていうのが主張の核じゃないですか。すごいシンプルで誰も反論がなさそうなことなのに、これが届かないのはすごい根深いですよね。

藤澤 そうですね。この本に対するよくある批判で、アメリカはコンドームの使用率が低いけど、それに大して日本の男はコンドーム付けてるから射精責任は果たしてる、ってコメントがよくつきます。アメリカだと男性用のコンドームの使用率は15~49歳の中で10%満たないんですよ。日本は男性のコンドームの使用率35%くらい。確かにアメリカよりは多いですけど、それでも低い数字です。(※参考:日本人が好むコンドーム 避妊法として適当か,朝日新聞デジタル)

山下 35%は低いですね。

藤澤 実際、私、低用量ピルを飲んでるんですけど。ピルを飲んでるってわかった途端、ほぼほぼ100%の男性が、しれっとコンドームつけないんですよ。いつも疑問というか。なんで?って思います。感染症のリスクは防げないし、ピルって毎日同じ時間に飲まなきゃいけないので、うっかり飲み忘れたりすると妊娠のリスクが上がったりするんですよ。なんかモヤモヤするなぁって。それが、いわゆるワンナイト的なセックスだけじゃなくて、信頼してると思って選んだはずのパートナーとの間でも、ほぼ100%起こることなので。善良だと思ってる人でも、やっぱり外したがるみたいな。すごい根深いなと思いますね。

山下 新宿にある大久保公園で、今すごい「立ちんぼ(路上売春)」が流行ってます。そこではゴムありのセックス1.5万、ゴム無しで外出しだと2万、ゴム無しで中出しだと3万みたいに、生で中出しするセックスが最も価値があるものとして取引されています。立ちんぼっていうとすごい特殊な人たちがやってるって思われるかもしれないですけど、そこでの価値基準は社会にある価値観が反映されている側面もあるように思います。売買春の現場以外の恋愛やワンナイトにおいても、生でやるセックスが一番価値が高いっていう価値観を持ってる人が多いんじゃないですかね。

藤澤 たぶんそうだと思います。選択肢があるなら、ゴム無しの方がいいと思ってる人が多くて。そこで天秤にかけられてる女性が妊娠した場合のリスクとかは軽く見積もられている。たとえゴム無しの方が気持ちいいということがあったとしても、快楽が0になるわけでもないのに、妊娠のリスクは無いことになっていて、快楽の方が優先されちゃうってのはあるっていうか。先ほどの話、ゴム無しで中出しのセックスが3万円でしたっけ?安すぎますよね。そもそも取引していいのかって問題はあるんですけど。たぶん、それこそ実際に中絶しなきゃいけないってなった時のリスクとは見合ってないだろうなって。

山下 生でやりたいってのも、リスク高いことをしたいとか、もっとも価値が高いとされていることをしたいとか、社会的な欲求である側面が大きな気がします。

藤澤 本のタイトルを決めるときに「射精責任」で検索してみたんですよ。そしたら「無責任射精」っていう言葉が既にあって。AVとかで使われてるんですよ。で、ネット見てると、広告でエロ漫画とか出てくるじゃないですか、「孕ませ」とか「わからせ」みたいなジャンルがあって。ある意味、女性にリスクを負わせることが支配と結びついていて、それを満たすってことが、快楽というか。それは物理的な快楽というより、社会的に構成されている快楽みたいなのが存在するんだな、って思って。

山下 なるほど、「無責任射精」の対だったんですね。

藤澤 本のタイトルを決めるときに、それを打ち返せるような言葉を送り出したいっていうのがすごいありましたね。結局その、女性だったり誰かを支配するっていうことで悦びを感じるようになってしまってるっていう。

山下 その支配の仕方に問題がありますよね。

藤澤 なんか雑に扱うことが支配になるっていうか。人をすげなく扱うってこと自体に支配を感じるっていうのがあるんだろうな、って。逆もあるじゃないですか。責任を取ることによって、大人としての自分を充足してくというか。子育てとかにコミットして、自分はこの子を育ててるんだっていう悦びを感じるとか。彼女に対してコミットすることで、自分は責任を果たしている大人だっていう風に感じる悦びってのもあると思うんですけど。その一方で、誰かを雑に扱う、誰かをいじめることで、自分はこいつの上に立ったんだっていう、そういう加害性とか支配から感じる悦びってのと、どう付き合ったらいいんだろうなっていう。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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