2024.12.31
大きな絶望の中で立ち上がるために必要なものを、登場する人たちに教えてもらえた―イラストレーター・野原広子の『海と生きる』イラストつき書評
第4弾は『妻が口をきいてくれません』で手塚治虫文化賞「短編賞」を受賞したイラストレーター・野原広子さん。じつは気仙沼は強い想いがある場所であったのです。野原さんのイラスト付き書評を、ぜひご一読ください。
(構成/「よみタイ」編集部)
涙が吹き出た理由はうまく説明できない
「気仙沼つばき会」と「気仙沼漁師カレンダー」の10年のドキュメント『海と生きる』を読んだ。
かつて私は、気仙沼に暮らしていたことがある。
しかし、震災があってから気仙沼を遠ざけていたように思う。
今年の秋、11作目の本『さいごの恋』を発売することができた。
そのすぐあと、「よみタイ」のサイト内の新刊案内で『さいごの恋』の横に『海と生きる』が並んだ。
2冊の並んだ本を目にして涙が吹き出た。
涙が吹き出た理由はうまく説明できない。
震災から13年。いろいろあった。
柳川みよ子さんのエピソードは人生で辛いことがあった時、絶対思い出す
「気仙沼つばき会」という女性たちだけの団体が「漁師カレンダー」というのを作っていたことを遠方に住んでいることもあり知らなかった。
カバーは懐かしい海に新しい大きな橋がかかっている写真だ。
こんなに綺麗な海だったっけ?などと、思いながら開いてみると、懐かしい漁師さんの姿があった。
会ったこともない漁師さんたちだけど、懐かしい。
気仙沼でこんなカレンダーを作っていたのね……、と、読み進めた。
……面白かった!
そもそも、気仙沼のおばちゃんというのはおもしろい人が多いのだが、震災からの「漁師カレンダー」を作りたい!という思いつきから始まり、日本を代表する写真家を前に「クリエイティブってなんだべ?」っていうやっちまった感に吹き出してしまうが、おばちゃんでもあり、そして経営者の集まりでもある「気仙沼つばき会」のみなさんの「漁師カレンダー」への情熱に心が奮い立たされた。
山口で商売をしているという女将の柳川みよ子さんのエピソードはとても好きだ。
これからの人生で辛いことがあった時は絶対思い出すだろう。
大きな絶望の中にあるとき、もちろん物資や人手の援助も大切なのだけど、それと同じくらい、もしくはそれ以上に立ち上がるために必要なものをこの本に登場する人たちに教えてもらえた気がする。
それが何なのかを、是非読んでいただきたい。
「漁師カレンダー」という企画を 10名の写真家がそれぞれの視点で撮っていて、この人が漁師さんを撮るととこうなるのか……!と、いうところも面白い。が、その苦労も見えるところが面白い。この本には書かれていない苦労もあったと想像させる。
写真家のみなさんがそれぞれ語っているのもとても貴重だ。
「気仙沼漁師カレンダー」10年分、見てみたい。
絶賛発売中!
藤井保・浅田政志・川島小鳥・竹沢うるま・奥山由之・前康輔・幡野広志・市橋織江・公文健太郎・瀧本幹也――日本を代表する10名の写真家が撮影を担当し、2014年版から2024年版まで全10作を刊行。国内外で多数の賞も受賞した『気仙沼漁師カレンダー』。そのプロジェクトの10年以上にわたる舞台裏を綴るノンフィクション。
10名の写真家が選んだカレンダーでの思い入れの深い写真や、単独インタビューも掲載。写真ファンにとっても貴重な一冊。また木村伊兵衛賞受賞の写真家・岩根愛の撮りおろしによる本書のカバー・表紙にも注目。
書籍の購入はこちらから!
【「海と生きる」プロローグ試し読み】 気仙沼の自称「田舎のおばちゃん」集団が、なぜ日本を代表する写真家たちと『気仙沼漁師カレンダー』を作れたのか?
【「海と生きる」1章前半試し読み】 「まだまだ気仙沼は大丈夫だ」、震災2日後にそう信じることができた白い漁船
【「海と生きる」1章後半試し読み】 「クリエイティブってなんだべ」の初プレゼン。感涙の『気仙沼漁師カレンダー』第1作が完成!
【タカザワケンジさん書評】 主役の「気仙沼つばき会」と漁師に、写真家が加わったことで奇跡的な「物語」になった
【畠山理仁さん書評】 すべての人は縁をつなぐために生きている。そんな読後感をもたらす一冊だ
【幡野広志さん書評】 モノを作る仕事をしたり、写真に関心がある人はとくに読んでもらいたい
【野原広子さん書評】 大きな絶望の中にあるとき、立ち上がるために必要なものを登場する人たちに教えてもらえた