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KERAと有頂天とナゴムと僕。5時間に及んだKERA還暦ライブを見ながら思ったこと

チューリップ・財津和夫の前で 「心の旅」有頂天バージョンを堂々と歌い上げたKERA

第三部はKERAがソロ名義で2021年にリリースしたカバーアルバムからの楽曲でスタートした。

24 時間よとまれ(KERA『まるで世界』収録)
25 欠伸指南(KERA『逃亡者K』収録)
26 キネマ・ブラボー(KERA『LANDSCAPE』収録)
27 ケイト(KERA『LANDSCAPE』収録)
28 LANDSCAPE SKA(KERA『LANDSCAPE』収録)

いい曲ばかりだった。
特に矢沢永吉の『時間よとまれ』KERAバージョンは、その場の時間を一瞬止めるようなアレンジがライブでは際立ち、とても印象的だった。
『心の旅』のカバーで1980年代キッズの心を鷲づかみにした、KERAの卓越したカバーセンスは健在なのだ。

そういえば有頂天バージョンの『心の旅』を初めて聴いたとき、僕は触れてはいけない禁断の果実に触れてしまったような気分になり、妙な興奮を覚えたものだ。
当時のポップス界で確固たる地位を確立していた偉大なバンド・チューリップの、高校生でも普通に知っている名曲をこんなに風に茶化していいの?と。

ところがあるときそんな有頂天が、財津和夫がプレゼンターを務めるテレビの音楽番組にゲスト出演することになった。
有頂天の出る番組は漏れなくチェックしていた当時の僕だったが、これだけは見るのが少し恐ろしかった。
ついに財津和夫を、いや世間の真っ当な大人を怒らせちゃうんじゃないかと思ったのだ。

しかしKERAは、財津和夫がピアノを演奏しながら静かに歌い上げる『心の旅』にフェードインする形で、いつもの有頂天バージョンを堂々と歌い切ってしまった。
画面に釘付けになっている僕のドキドキをよそに、財津和夫は最後まで柔和な笑顔を保ち、そんなKERAを讃えつつアテンドしていたのが印象的だった。

未熟な僕は、「おいおい、大事な自分の曲が冒涜されているのに」と思ったものだが、今になって考えてみると、大人な財津和夫はKERAの楽曲に対する愛に最初から気づいていたのだと思う。

5時間に及んだ還暦ライブの大団円。そして感じたKERAの大きな愛

有頂天仕様のイエロー×ブラックなスタイルでステージに立つ。(撮影/江隈麗志)
有頂天仕様のイエロー×ブラックなスタイルでステージに立つ。(撮影/江隈麗志)

恵比寿ザ・ガーデンホールに話を戻そう。
第三部の後半、有頂天が登場した
ほっとしたように「いつものメンバーだ。やっと気を使わなくて済む」と言うKERAが面白い。
そうは見えなくても、やっぱ気を使ってたんだな。

そしてここからの僕は当然、これまでに増して前のめり気味になった。
昔から聞きなじんだ曲だと、やはり心も体もうずいて仕方がないのだ。

KERAはこの還暦ライブを「同窓会のようにはしたくないから」と言って、昔の曲より最近のものを多めに演っていた。
僕は最近のKERAの曲も好きなので、十分楽しんではいたのだが。
でもね、でもでも、やっぱり有頂天なのですよ。
それはホント、すみませんけど。

29 世界は笑う(有頂天『STOP! HAND IN HAND』収録)
30 ニーチェズ・ムーン(有頂天『カフカズロック/ニーチェズムーン』収録)
31 B.C. (有頂天『GAN』収録)
32 心の旅(有頂天 シングル曲)
33 愛のまるやけ(有頂天『愛のまるやけ』収録)

『心の旅』ではKERAがステージから降りてきて、客席の間の通路を練り歩きながら歌ってくれたので、会場は一段と盛り上がった。
ステージに戻ってから「ここに(客席へ降りるための)階段があると聞いていたのになかった」とぶつぶつ言って笑わせていたけど。
そして本編締めは、大名曲『愛のまるやけ』。
フィーチャーされたバイオリンの演奏も素晴らしく、最高のエンディングとなった。

有頂天の曲を熱唱するKERA。(撮影/江隈麗志)
有頂天の曲を熱唱するKERA。(撮影/江隈麗志)

そして2回のアンコールは、こんな曲をやった。

Encore1
34 フィニッシュ・ソング(有頂天『でっかち』収録)
35 HAPPY SLEEP(有頂天『カラフルメリィが降った街』収録)
Encore2
36 フォレスト・グリーン(或いは、あの歌をいつか歌えるか)(KERA『Brown,White & Black』収録)
37 プロペラ(KERA『逃亡者K』収録)
38 還暦マーチ(KERA『現在地』収録)

『還暦マーチ』は、KERAがこの日のために作ったクレイジーキャッツを彷彿とさせる新曲だ。
すべての曲を歌い終えた後は、KERAが長い経歴で一度も経験がなく、ぜひこの機会にやりたかったという、客席をバックにしての記念撮影。
今日の出演者のほとんどがステージに戻ってきて、みんな心から楽しそうに、太陽のような存在のKERAを囲んで記念撮影をした。

17時半スタート、22時半終了という5時間に及んだ長い長いKERA還暦ライブの一部始終を見届けた僕の感想は、「なんて愛にあふれたライブだ」というものだった。

5時間におよぶライブを終えて。出演者と観客との記念すべき1枚。(撮影/江隈麗志)
5時間におよぶライブを終えて。出演者と観客との記念すべき1枚。(撮影/江隈麗志)

そうなのだ。
一見シュールで、クールなようにも思えるKERAという人は、人間をはじめとするすべての生きとし生けるものやこの世界、宇宙に対して、まるやけにせざるをえないほどの熱い愛を持つ人に違いない。
多くの人々がKERAにどんどん吸い寄せられてしまうのは、その愛の深さゆえなのだ。
そして今日の還暦ライブは、普段は照れくさくて意図的にカモフラージュすることも多いのであろうその愛を、この時ばかりはとわかりやすく解放しているように見えた。
そんなKERAの還暦を祝い、ライブを盛り立てるために集まったのは総勢48名! こんな人たちだった。

石野卓球 電気グルーヴ
犬山イヌコ ナイロン100℃・俳優
猪俣三四郎 ナイロン100℃・俳優
今井佐知子 元Qlair
上石統 トランペット
内田雄一郎 筋肉少女帯/空手バカボン
大石将弘 ナイロン100℃・俳優
大槻ケンヂ 筋肉少女帯/空手バカボン
小園茉奈 ナイロン100℃・俳優
かわいしのぶ KERA & Broken Flowersベース類
眼鏡太郎 ナイロン100℃・俳優
クボブリュ 有頂天ベース
コウ 有頂天ギター
木乃江祐希 ナイロン100℃・俳優
ゴンドウトモヒコ 音楽家
坂出雅海 ヒカシューのベーシスト、即興音楽家、作曲家
佐久間亮 KERA soloドラマー
佐藤真也 ピアノ/キーボード
シウこと、角田英之 有頂天キーボーディスト
重住ひろこ・岡村玄 Smooth Ace/コーラス
ジン 有頂天ドラム
新谷真弓 ナイロン100℃・俳優
杉山圭一a.k.aケイティ KERA & Broken Flowers
鈴木慶一 moonriders
鈴木光介 音楽家
砂原良徳 ミュージシャン
高橋香織 バイオリン
田渕ひさ子 KERA & Broken Flowersギター
中井敏文
中野テルヲ ミュージシャン
ハラナツコ KERA & Broken Flowers
ピエール瀧 電気グルーヴ
藤田秀世 ナイロン100℃・俳優
伏見蛍 ミュージシャン、ギタリスト
松野有里巳 元ribbon/フィットネスインストラクター
三浦俊一 音楽プロデューサー
峯村リエ ナイロン100℃・俳優
みのすけ ナイロン100℃・俳優/ミュージシャン
三宅弘城 ナイロン100℃・俳優
宮前真樹 元CoCo/料理研究家
村岡希美 ナイロン100℃・俳優
安澤千草 ナイロン100℃・俳優
湯浅佳代子 トロンボーン・作編曲
吉増裕士 ナイロン100℃・俳優
REIKO ドラマー KERA & Broken Flowersドラム
(五十音順)

ライブの興奮冷めやらない僕は、iPhoneで有頂天の最初のアルバム「土俵王子」を聴きながら帰路に着いた。
『おすもうさんの唄』や『やくざなピリカメノコ』『ゲロ』なんていうぶっ飛んだ曲を聴いてキャッキャと喜んでいた高校生時代の僕も、やっぱりKERAがオブラートに何重にもくるんで発していた愛に気づいていたのだろうか。
考えてみたが、今となってはよく思い出せなかった。

有頂天の自主制作ファーストアルバム「土俵王子」(ナゴムレコード 1983年11月リリース)
有頂天の自主制作ファーストアルバム「土俵王子」(ナゴムレコード 1983年11月リリース)

KERA還暦イヤーLIVEのお知らせ

KERA還暦イヤーLIVE#2
「有頂天 ワンマンライブ」
日時:2023年4月23日(日)18:30open 19:00start
場所:渋谷ラ・ママ
価格:前売¥6000 当日¥6500(ドリンク別)※オール・スタンディング 
ローソンチケットにて発売中

KERA還暦イヤーLIVE#3
「KERA & Broken Flowers 初ワンマンライブ」
日時:2023年4月30日(日)18:30open 19:00start
場所:渋谷ラ・ママ
価格:前売¥5500 当日¥6000(ドリンク別)※オール・スタンディング
ローソンチケットにて発売中

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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