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夏休みに流れた噂
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

夏休みに流れた噂

 あの夏の日、シロンボを捕まえようと言いだしたのは誰だったろうか。
 A・B・C・D四人の仲良しグループで話し合っているうちに出たアイデアだと思う。
 シロンボとは、この頃、僕らの田舎町に出没していた、まっ白く大きな猿の呼び名だ。
 電線をつたって歩いていく姿を、何人もの人が目撃しているそうだ。やけに珍しい見た目の猿がいるらしいと、大人も子どもも話題にしていた。
 ただ目撃者の全員が、かなり遠くを行く後ろ姿しか見ていないので、シロンボの正確な大きさや顔はわからないという。よほど警戒心が強いのか、ただの噂話だからディテールが練れていないのか。
 まあ、シロンボが本当にいるかどうか、四人にはどうでもよかった。捕まえるといっても誰一人として本気ではない。ケータイでそれらしき写真さえ撮れればいいと思っていた。軽い気持ちで、四人は町の外へと出ていった。
 
国道から山の方に入るとすぐ、見渡す限り田んぼだらけの風景になる。田植えはもう終わった時期なので、作業する人の影がまばらに見えるだけだった。
「この辺で、兄ちゃんの友達がシロンボを見たんだって」
 学校が違うらしいからよく知らないけど、とA君が言った。それだけの情報ではなんのアテにもならず、四人は適当に、ずっと遠くの送電塔を目標に歩いていった。
 
 あっ、とB君が叫んだ。皆で見上げると、はるか向こうの電線の上を、小さな白い影が移動しているではないか。
 C君がケータイを構えた。しかし他の皆はとっさにシロンボの方へ走り出していた。
 ひょこ、ひょこ、ひょこ。シロンボは器用に電線をつたっていく。
 かろうじて四つんばいとわかるほどの白い点を追いかける。そのうちに田んぼも途切れ、辺りは山ばかりとなっていった。
 するとシロンボは、電線が林道の脇でカーブするところで、ひょいと飛び降りた。そのまま木々の繁る山へと入っていく。
「あそこ行ったぞ!」四人とも、夢中で林道に入っていった。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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