2021.8.20
夏休みに流れた噂
あの夏の日、シロンボを捕まえようと言いだしたのは誰だったろうか。
A・B・C・D四人の仲良しグループで話し合っているうちに出たアイデアだと思う。
シロンボとは、この頃、僕らの田舎町に出没していた、まっ白く大きな猿の呼び名だ。
電線をつたって歩いていく姿を、何人もの人が目撃しているそうだ。やけに珍しい見た目の猿がいるらしいと、大人も子どもも話題にしていた。
ただ目撃者の全員が、かなり遠くを行く後ろ姿しか見ていないので、シロンボの正確な大きさや顔はわからないという。よほど警戒心が強いのか、ただの噂話だからディテールが練れていないのか。
まあ、シロンボが本当にいるかどうか、四人にはどうでもよかった。捕まえるといっても誰一人として本気ではない。ケータイでそれらしき写真さえ撮れればいいと思っていた。軽い気持ちで、四人は町の外へと出ていった。
国道から山の方に入るとすぐ、見渡す限り田んぼだらけの風景になる。田植えはもう終わった時期なので、作業する人の影がまばらに見えるだけだった。
「この辺で、兄ちゃんの友達がシロンボを見たんだって」
学校が違うらしいからよく知らないけど、とA君が言った。それだけの情報ではなんのアテにもならず、四人は適当に、ずっと遠くの送電塔を目標に歩いていった。
あっ、とB君が叫んだ。皆で見上げると、はるか向こうの電線の上を、小さな白い影が移動しているではないか。
C君がケータイを構えた。しかし他の皆はとっさにシロンボの方へ走り出していた。
ひょこ、ひょこ、ひょこ。シロンボは器用に電線をつたっていく。
かろうじて四つんばいとわかるほどの白い点を追いかける。そのうちに田んぼも途切れ、辺りは山ばかりとなっていった。
するとシロンボは、電線が林道の脇でカーブするところで、ひょいと飛び降りた。そのまま木々の繁る山へと入っていく。
「あそこ行ったぞ!」四人とも、夢中で林道に入っていった。