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空を飛ぶ夢を見るようになったら
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

空を飛ぶ夢を見るようになったら

 
七月四日
 そういえば最近、空を飛んでいない。
 夢の中での話だ。小さい頃や中高生まではよく、ふわふわと空中を散歩する夢を見たものだった。今でもはっきりと、夜空から眺めた光景、あの気持ちよさを覚えている。飛ぶ夢というのは、大人になるにつれて見なくなるものなのかな。でも昔を思い出したせいで、なんだかもう一度同じ体験をしたくなってきた。夢をコントロールするには、夢日記をつけるといいそうだ。今日からは起きてすぐ、夢をこのメモに書き残しておくようにする。

七月六日
 日記をつけるようにしたのは正解だった。こんなにすぐ「飛ぶ夢」に出くわすとは。飛んでいくのは空想の世界ではない。よく見慣れた、うちの近所の上空だ。家々の屋根を見下ろして、速いんだか遅いんだかわからないスピードで進んでいく。そうそう、この感じだよ。昔の楽しさがよみがえってきた。

七月一一日
 夢って、クセになるものなんだろうか。メモに残しているうち、毎晩のように「飛ぶ夢」ばかり見るようになった。それもだんだん長くなっていくし、なんというか、ぼんやりしたイメージではなくなっていく。自分の体の感覚や、目に入るもの、全てが目覚めている時と同じようなリアルな感じ。なんだか少し怖い。

七月一四日
 今日初めて、「飛ぶ夢」を最初から最後まで見てしまった。今まで夜空に浮かんでいるところから始まっていたけど、それは途中なのだとわかった。本当は寝入りばな、自分がベッドから離れて、宙に浮かんでいくところから始まるのだった。驚いて下を向くと、目をつむっている自分の体が見えた。そのまま家の外へと飛んでいく。いつものように、近所の上空を浮かんでいく。そして目が覚める直前、ぐいぐいと家の方に戻っていき、また寝ている自分の中に入っていく。それが「飛ぶ夢」の全体なのだと思う。
 でも、ベッドに自分がいるんだとしたら、外を飛んでいる自分は、なんなのか?

七月一七日
 もう見たくないのに、また例の夢を見てしまう。メモに残すから、何度も何度も繰り返してしまうのだ。夢日記をつけるのは、もうやめることにする。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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