2021.8.2
空を飛ぶ夢を見るようになったら
七月四日
そういえば最近、空を飛んでいない。
夢の中での話だ。小さい頃や中高生まではよく、ふわふわと空中を散歩する夢を見たものだった。今でもはっきりと、夜空から眺めた光景、あの気持ちよさを覚えている。飛ぶ夢というのは、大人になるにつれて見なくなるものなのかな。でも昔を思い出したせいで、なんだかもう一度同じ体験をしたくなってきた。夢をコントロールするには、夢日記をつけるといいそうだ。今日からは起きてすぐ、夢をこのメモに書き残しておくようにする。
七月六日
日記をつけるようにしたのは正解だった。こんなにすぐ「飛ぶ夢」に出くわすとは。飛んでいくのは空想の世界ではない。よく見慣れた、うちの近所の上空だ。家々の屋根を見下ろして、速いんだか遅いんだかわからないスピードで進んでいく。そうそう、この感じだよ。昔の楽しさがよみがえってきた。
七月一一日
夢って、クセになるものなんだろうか。メモに残しているうち、毎晩のように「飛ぶ夢」ばかり見るようになった。それもだんだん長くなっていくし、なんというか、ぼんやりしたイメージではなくなっていく。自分の体の感覚や、目に入るもの、全てが目覚めている時と同じようなリアルな感じ。なんだか少し怖い。
七月一四日
今日初めて、「飛ぶ夢」を最初から最後まで見てしまった。今まで夜空に浮かんでいるところから始まっていたけど、それは途中なのだとわかった。本当は寝入りばな、自分がベッドから離れて、宙に浮かんでいくところから始まるのだった。驚いて下を向くと、目をつむっている自分の体が見えた。そのまま家の外へと飛んでいく。いつものように、近所の上空を浮かんでいく。そして目が覚める直前、ぐいぐいと家の方に戻っていき、また寝ている自分の中に入っていく。それが「飛ぶ夢」の全体なのだと思う。
でも、ベッドに自分がいるんだとしたら、外を飛んでいる自分は、なんなのか?
七月一七日
もう見たくないのに、また例の夢を見てしまう。メモに残すから、何度も何度も繰り返してしまうのだ。夢日記をつけるのは、もうやめることにする。