2021.7.2
夜道を歩く女性の二人組が向かう先
午前四時、クワガタ取りの約束をした友達がまだ来ない。
──あのおもちゃ屋、ノコギリかヒラタでも一匹五百円で買い取ってくれるらしいぞ。
──じゃあ三時に、山の前のバス停で待ち合わせな。
あいつ、昼間に遊び過ぎて寝過ごしているんじゃないか。
近くに電話ボックスはあるけど、さすがにこんな時間にかけたら、向こうの親に怒られてしまう。
それにもう東の空の下がぼんやり白くなりかけている。
今すぐ友達が来ても、もう山に入るには手遅れだろう。
仕方ない、もう帰ろう。自転車にまたがり、自宅に向かってこぎはじめた。
田舎道とはいえ、街灯は点々と設置されている。
走っていく自分の影は、街灯に向かうにつれて後ろからすうっと近づいてくる。影は照明の真下でいったん消え、離れていくと前の方へ伸びていく。伸びきったら次の街灯に照らされた影が後ろから近づき、また自分を追い越していく。
まるで影絵の芝居みたいだ、と思っていたら。
細長い人影が二つ、視線の先に入ってきた。
顔を上げると、女性の二人組がずっと前を歩いている。
後ろ姿なのに、なぜか二人とも美人だとわかる。歩道側の女性は長髪で、スミレの花模様のワンピース。車道側の人はショートカットで、白か黄色のやはりワンピースを着ている。
彼女たちは、後ろから近づく自分に気づいていないようだ。
なんとなくスピードをゆるめて、その背中を見つめた。不審がられるだろうけど、どうもなにかが気になってしまう。
少しして、違和感の正体が判明した。
こちらの影は街灯ごとに伸びたり縮んだりしているのに、二人の影はさっきから大きさが変わらない。ずっとこちらに細長く伸びたままなのだ。
(あれ、あれ、なんでだろう)
そう思っているうち、お互いの距離が緩やかに縮んでいく。