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夜道を歩く女性の二人組が向かう先
めくるたび、どんどん怖くなる。 『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。 1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

夜道を歩く女性の二人組が向かう先

 午前四時、クワガタ取りの約束をした友達がまだ来ない。
 
 ──あのおもちゃ屋、ノコギリかヒラタでも一匹五百円で買い取ってくれるらしいぞ。
 ──じゃあ三時に、山の前のバス停で待ち合わせな。
 
 あいつ、昼間に遊び過ぎて寝過ごしているんじゃないか。
 近くに電話ボックスはあるけど、さすがにこんな時間にかけたら、向こうの親に怒られてしまう。
 それにもう東の空の下がぼんやり白くなりかけている。
 今すぐ友達が来ても、もう山に入るには手遅れだろう。
 仕方ない、もう帰ろう。自転車にまたがり、自宅に向かってこぎはじめた。

 田舎道とはいえ、街灯は点々と設置されている。
 走っていく自分の影は、街灯に向かうにつれて後ろからすうっと近づいてくる。影は照明の真下でいったん消え、離れていくと前の方へ伸びていく。伸びきったら次の街灯に照らされた影が後ろから近づき、また自分を追い越していく。
 まるで影絵の芝居みたいだ、と思っていたら。
 細長い人影が二つ、視線の先に入ってきた。
 顔を上げると、女性の二人組がずっと前を歩いている。
 後ろ姿なのに、なぜか二人とも美人だとわかる。歩道側の女性は長髪で、スミレの花模様のワンピース。車道側の人はショートカットで、白か黄色のやはりワンピースを着ている。
 彼女たちは、後ろから近づく自分に気づいていないようだ。
 なんとなくスピードをゆるめて、その背中を見つめた。不審がられるだろうけど、どうもなにかが気になってしまう。
 
 少しして、違和感の正体が判明した。
 こちらの影は街灯ごとに伸びたり縮んだりしているのに、二人の影はさっきから大きさが変わらない。ずっとこちらに細長く伸びたままなのだ。
(あれ、あれ、なんでだろう)
 そう思っているうち、お互いの距離が緩やかに縮んでいく。

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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