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【特別対談】小説家も驚いた! 乳がん治療最前線 

再建技術は日々進歩していた! 乳がん手術後の見た目問題

篠田 乳がんの手術って、昔は「ハルステッド法」とか言って腋の下のリンパ腺から筋肉組織まで全部取っちゃったそうですが、その後にだんだん取る部分が小さくなっていったとうかがいましたが……。

名倉 そうですね、取りすぎない方向に向かっています。「根治性」と「整容性」のせめぎ合いというのはずっと言われているところで、乳がんを取り残さないようにしっかり取りたい、でもあまり取りすぎてしまうと、再建したインプラントの輪郭がくっきり見えて、きれいにできなかったりするので、そこは乳腺外科と形成外科とがよくよく話し合うところです。

篠田 あちらを立てればこちらが立たず、というわけですか。

名倉 もともとの疾患である乳がんの治療が最優先なので、根治性に重きを置いてしっかり取るのは大事なことです。そのあとに形成外科でできるだけのことをしようと思っているんですけど、乳腺外科の先生方と整容面を考慮した話し合いをすることが増えてきているように思います。
 たとえば温存手術をするにしても、切除した後の乳房がなるべくきれいな形になるように工夫したり、全摘出手術と同時に人工物で再建するなら、病変に関係ないところは取りすぎないようにしたり、傷の切開部位や大きさをどうしようかっていうのを、一緒に話し合ってくださるようになりました。以前は、形成外科側は受け身というか、乳腺外科で乳房切除手術が終わる頃に手術室に入って、どのような術後の状態でもそこから頑張る感じだったのが、術前から、病変があって皮膚が薄くなりそうな部位や傷の位置などを話し合えるようになったのはすごくいいことだと思います。

納得して治療に向かってもらえるよう、とにかく患者さんとの話し合いを大切にしている、という名倉先生。
納得して治療に向かってもらえるよう、とにかく患者さんとの話し合いを大切にしている、という名倉先生。

篠田 そういう意味では、温存にこだわらなくても、だいぶ見た目の問題も改善されてきているわけですね。今回、最初にがんと診断されたクリニックで、私の場合、全摘の方が望ましいと言われたときに、一昔前に手術した友人たちがみんな温存だったから、私も温存でやりたい、とインターネットで調べたんですけど、「ここの病院は何割温存でやってくれる」みたいなランキングが出てきました。まだまだ多いんでしょうね、何とか全摘ではなく残したい、という方。それどころか、手術さえしたくないという方。それで、まだエビデンスがしっかりしてないような最先端の医療に走ったり、怪しげな治療に通ったり……。

名倉 中にはいらっしゃいます。

篠田 先生どうしても温存にしてください! といったケースもあるそうで、なかなかそのあたり、大変ではないですか? 患者さんへの説明は、どんな感じで行っているんですか?

名倉 とにかく、話し合いです。もちろん標準治療、エビデンスがわかっている治療を勧めますけど、患者さんの気持ちを無視して押しつけることはできません。そこが難しいところですね。通院して、話を聞いてくださって、何とかしようとしている患者さんには、こちらもできるだけコミュニケーションを取っていきたいと思うんですけど……どうにも折り合いがつかないときもあります。通院を止めてしまわれて、今どこでどうしていらっしゃるのかわからない方もいます。来なくなってしまうと、こちらはどうすることもできないのが現実です。

篠田 セカンドオピニオンで別のところに行って、無事に済んでいればいいですけどね。

名倉 そうですね……あちこち受診するうちに、時間もどんどん過ぎてしまうので、治療法に納得していただける説明ができるよう心がけています。

篠田 説明しても、納得してもらえない?

名倉 がんになっていろいろ不安で、治療法のデメリットに敏感になり、受け入れたくないというのもわかるので、難しいなと思いますね。

篠田 確かに、診断された直後は、結構ナーバスになるでしょうからね。

名倉 診断されると、治療のことをトントントンと決めなきゃいけない。受け入れきれないうちに、突然たくさんのことを言われるので。

篠田 お若い方は特にそうかもしれない。先のことをあれこれ考えてしまうだろうし。

名倉 ご自身のことだけでなく、家族からの心配もあるので、いろいろな迷いが生まれてしまうのだと思うんです。

篠田 私の知り合いの方で、乳がんの手術を勧められたんだけど、私と同年代で、この歳になって手術するのは嫌だと。
 それで最先端の放射線治療を受けたけれど、中はケロイド状になっているのでその後も痛みが残って、そのたびに不安になるとか。センチネルリンパ節の切除もして、なんだかんだ言って結局手術することになってしまった、と嘆いていらした。そのあたりなかなか手術前にはイメージできないんですよね。

名倉 標準治療は、副作用やデメリットもきちんと説明されますけど、標準ではない治療の中には、そこをあえて伏せて、傷ができないとか、楽だとか、いいことばかり言うものもあります。不安な状態でそういった情報が入ると、そっちにすがりたくなる気持ちもわからなくはないです。ご家族がいる場合、まずはご家族にしっかり理解していただいて、本人が納得できるようにサポートしていただくこともできるんですが、逆に家族がそういった治療を探してきて、引っ張られちゃうこともありますね……。

篠田 そこは、やっぱり「がん」という病気の特殊な部分ですね。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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