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【特別対談】小説家も驚いた! 乳がん治療最前線 

あのハリウッドセレブも? 新しい乳がん治療

篠田 何年か前に、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが、遺伝子検査の結果乳がんになる確率が高い、という理由から全摘して再建したことが報じられ話題になりました。日本でも、そういう予防としての切除というのは行われているんですか?

名倉 遺伝子検査や予防的な手術などが保険診療として認められていないため、日本ではまだ限られた施設でしか行われていません。当院では遺伝カウンセリングを行った上で、遺伝性乳がんという診断がついた方にのみ、乳房や卵巣の予防切除を行うことが倫理委員会で認められており、希望される方に行っています。
 ただやみくもに、「私はがん家系だし、自分もなるかもしれないから取っておこう」ということではなくて、あくまで遺伝性乳がんであると検査で明らかになった方を対象に、リスク低減の方法の一つとして、予防的な切除の選択肢を提示しています。乳房の切除手術を行うことで、新たな乳がんの発症リスクを9割近く減らすことができますので、当院でも力を入れている治療の一つです。

篠田 遺伝子検査でそこまでわかるものなんですね。

名倉 もちろん、診断されたからと言って必ず乳がん・卵巣がんなどを発症するというわけではありません。遺伝子の病的変異がわかっても、実際に予防切除にまで踏み切る方はまだまだ少ないですね。

篠田 予防切除ということは、保険適用ではないんでしょう? なんとなく、セレブじゃないと受けられないような治療っていうイメージがありますけど。

名倉 現時点では、検査費用も含め、切除・再建する場合も自費診療になりますので、高価ですね……。予防切除と一緒に人工物再建まで行うとなると100万円以上はかかります。そこが保険適用になれば、もっと検討する人が増えると思うのですが。

篠田 実際にがんになってから治療を開始するよりも、発症を防げた方が、医療費とか、治療で休職したりすることの経済的損失も軽減されるんじゃないかと思います。

名倉 医療経済的なメリットはあると思いますね。ただ、精神的にも肉体的にも負担を伴う選択ではありますので、専門的な知識を持つスタッフが、検査結果を受けて、どんな治療を受けられるのか、切除するかしないかの選択をサポートできる体制が整うことが大前提かとは思います。

篠田 まだ現時点では発症していないものを取る、っていうのは、抵抗が大きいでしょうからね。実際に乳がんを発症しても、私などもまず最初になんとか温存できないか、と思ったくらいですから。

名倉 検査を受けようと思ってもらうには、治療の選択肢を知ってもらうことが大切だと思います。「がんだとわかったら怖いから、検査したくない!」とならないように、治療や手術、再建の実際の情報が、もっと広く知られてほしいですね。篠田さんのエッセイでは、そこをものすごく詳しく書いていただいて、ありがたいです。

篠田 現時点での乳がん治療の、一つのケースとして知ってもらいたい、という気持ちが強かったんです。私個人の心情とか、状況を理解してほしい、というのは全然なくて。 
 エッセイというより、ルポみたいな感覚ですね。実際に知らないことって、イメージから入るじゃないですか。だから、どんな検査をして、どんな風に手術をして……って、自分が手帳につけていたメモをもとに、できるだけ実体験を細かく書いたつもりです。

名倉 私たちスタッフのことも、よく観察して楽しく書いてくださって……(笑)。エッセイを読まれた患者さんは、「あ、この先生!」と気づく方もいるかもしれませんね。

篠田 人を描くのは本業なものですから、ついつい筆がすべって(笑)。先生方みなさん個性的で、お蔭さまで充実した入院ライフを過ごさせていただきました。ありがとうございました。

いかがでしたか? 単行本収録の対談では、篠田さんが受けた乳房再建手術の詳細や触りごこち、再建後の心境の変化まで、さらにディープな話題に踏み込んでいます。ぜひ書籍をチェックしてみてください! 電子版も好評発売中です。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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