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ラフィンノーズ・チャーミーの死生観。「『好きなことやって、俺、楽しかったから、オールOK』で死んでいきたい」【佐藤誠二朗『いつも心にパンクを。』試し読み 第一章その2】

チャーミーの死生観について

チャーミーにとって、ラフィンノーズは母艦のような存在だが、たまにそこを離れ、個人の活動をおこなうこともある。近年で特筆すべきは、韓国のインディーズ・ミュージックシーンに衝撃を受け、2016年にプロデュースしたオムニバスアルバム『大韓不法集会』である。ファンにはなじみ深い、1984年にラフィンノーズが運営するインディーズレーベル・AAレコードから発売された『ハードコア不法集会』の流れをくんだタイトルからもわかるように、チャーミーの情熱が色濃く反映された作品だ。

「韓国のロックなんてまったく知らなかったけど、あるきっかけで彼らのビデオを見たら、『これ、ヤバくねえか?』となって。ハングルも全然わからないから、ビデオの画面のキャプチャーをパソコンに取り込んで翻訳してみたら、バンド名とか曲名が書いてあることがわかりました。
そんな状態から手探りでどんどん掘っていったら、本当に面白くてね。実際に現地にも行くようになってわかってきたのは、1970年代に日本を含めて世界中を席巻したパンクが、韓国にはリアルタイムでは入ってなかったということ。その代わりというか、俺が韓国のバンドのなかで突出して好きなサヌリムというバンドが、セックス・ピストルズと同時期の1977年に韓国でデビューしているんです。音楽性は全然パンクじゃないんだけど、影響力という点やオリジナリティでは『これは韓国のパンクだなあ』と思って。もうこれは俺が動くしかないなと、さらにいろいろ調べ、向こうのミュージシャンとも交流を深めてつくったのが『大韓不法集会』だったんです」

いったん何かに魅せられると、とことんのめり込む性質のチャーミー。その情熱が、ラフィンノーズの音楽にも影響しているのかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「それは、めちゃめちゃありますね。ポンもよくこう言います。『チャーミーがなんかに興味を熱く持つときって、ラフィンもすごく良くなるんだよね』って。ポンが言うには、俺が何かにハマっているときほど、ライブなんかもターボがかかっているらしくて。だから『おまえはそれでええねん。そういうときのおまえはめっちゃかっこええから、がんがん行けよ』って、煽られてますよ(笑)」

ラフィンのライブは、僕と同世代の観客がフロアで大騒ぎしながら楽しんでいる。僕自身の体験として「後ろで観ようと思っても結局前に行ってしまう」と伝えると、チャーミーは笑って、「そうですか。俺は人のライブに行ったら、後ろのほうで観るけどね(笑)。おまえら、よくモッシュとか怖いことできるなって。絶対、無理(笑)」と答えた。

でも観客同士はお互いに気にしながら、怪我などしないように楽しんでいることを伝えると、うれしそうにこう応じた。

「俺らの伝えたいこともそこで、みんな理解してくれてますね。『楽しもうぜ!』ってのが一番。人間、死ぬときに後悔したくないじゃないですか。『いろいろ楽しかったからまあいいか。好きなことやって、俺、楽しかったから、オールOK』で死んでいきたいなと思ってます。食の話もしましたけど、いくら健康管理してても、万人に必ず死は訪れるんだから。もう死ぬなっつうとき、もっと楽しんどきゃよかったと悔やむんじゃなくて、『なんか楽しかったな。OK!』で死ぬのがいい。だからとにかく楽しもうぜって」

この〝楽しもうぜ〟という精神は、まさにラフィンノーズの現在地を表している。2025年3月に発売されたラフィンの最新音源は、『ビー・ファン・ビー・フリー・ラフィンノーズ』というタイトルの6曲入りミニアルバム。3~6月には「2025春のレコ発ワチュロウ・パーティ」と題した全国ツアーも展開した。

62歳、誕生日当日のポートレイト。(撮影/木村琢也)※写真は書籍掲載分より
62歳、誕生日当日のポートレイト。(撮影/木村琢也)※写真は書籍掲載分より

以下、「第一章その3」に続きます。8月30日午前9時配信予定です。

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1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代から約40年、パンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャー・ノンフィクション。
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佐藤誠二郎『いつも心にパンクを。』刊行特集一覧

【第一章試し読み その1】有頂天KERA、the原爆オナニーズTAYLOW……還暦すぎてもインディーズなふたりのパンク哲学とは?

【第一章試し読み その2】ラフィンノーズ・チャーミーの死生観。「『好きなことやって、俺、楽しかったから、オールOK』で死んでいきたい」

【第一章試し読み その3】ザ・スタークラブのHIKAGEとニューロティカのATUSHI。少しキャラ違いのふたりが歩む40年以上のパンク道

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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