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場と機会を経営する【後編ゲスト:平田はる香さん】

「場と機会を経営する」というテーマで2人の経営者に話を聞く本特集。後編のゲストは、長野でパンと日用品のお店「わざわざ」をはじめとするブランドを育ててきた平田はる香さんです。急成長の過程で「経営を学び直す」と決意した背景には、「続けられる場」をつくるための現実的な試行錯誤がありました。染谷拓郎さんとの対話から、その実践の知恵を探ります。前編の記事はこちら

構成・文/染谷拓郎 撮影/土田凌
平田はる香さん(左)と染谷拓郎さん(右)
平田はる香さん(左)と染谷拓郎さん(右)

こんにちは、株式会社ひらくの染谷拓郎です。「場と機会を経営する」後編です。今回は株式会社わざわざ代表の平田はる香さんにお話を聞きました。

わざわざは、もともと平田さんがお一人で始められたパン屋さんです。いまは、「わざわざ」「問tou」「わざマート」「よき生活研究所」など、さまざまなブランドをつくり上げています。平田さんのものづくりへの姿勢や考え方、ライフスタイルに共感する方も多く、2023年には『山の上のパン屋に人が集まるわけ』を上梓、全国でトークツアーも開催されました。

わざわざで十数年前にパンとパン切りナイフを買って以来、僕は平田さんやわざわざの活動をずっと意識してきました。面識はあったものの、ゆっくりお話しするのは初めて。わざわざが展開するビジネスの現在地やこれからのプランなど、穏やかで心地よい空気が流れる、よき生活研究所のリビングテーブルを囲みながらお話を聞きました。

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染谷 今日はお時間頂きありがとうございます。

平田 とんでもないです。遠くからありがとうございます。

染谷 今回、「場と機会を経営する」というテーマでお話を伺いたいと思っています。先日、同じテーマでブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんにもお話を聞いてきました。内沼さんは僕の先輩みたいな感じなんです。

平田 そうですね。本のお仕事の。

染谷 そうなんです。本との新しい出会い方や切り口をつくってこられて。僕もそれをずっと追いかけてきました。

平田 内沼さんは本を介してさまざまな事業をされていて、面白いですよね。

染谷 平田さんもわざわざをはじめとして、複数のお店を展開されていますが、最近はどのようなお仕事をされているのですか?

平田 買い付けの仕事で商談をしたり、工場を回ったりですね。書籍を刊行したとき、出版記念のトークツアーで全国をだいぶ回ったので、いまはインハウスの仕事をしたいモチベーションなんです。

もう一度、勉強し直そう

染谷 本題に入る前に、少しだけ、僕の会社ひらくの説明をさせてください。事業が大きく2つありまして。1つは入場料のある本屋「文喫」のように自分たちで経営する書店で、六本木、福岡天神、名古屋・栄、高輪ゲートウェイシティの4店鋪あります。

もう1つは、企業や行政からお話をいただいて、本がある場所をつくっていくこと。本を組み合わせて複合施設をつくってほしいといったリクエストなど、プロデュース業や業態開発まで手がけています。

改めて平田さんの著作を読み返したら、ひらくが直面していた課題と似ている部分がありました。拡大して、人が増えて、マネジメントが難しくなったり、チームとして少し停滞したりとか。今日はその辺りも含めていろいろ聞いていきたいなと思っています。

平田 分かりました。本に書いたあとのことからお話ししていくと、いろいろな意味でコロナによる影響が大きかったと思います。それまで、各地方に講演会で呼ばれて行ってみると、びっくりするほど反応が熱くて。でもコロナを経て、講演の機会がゼロになったんです。そこで少しほっとしたんですよね。これでちゃんと事業のことができるって。

「よき生活研究所」。わざわざで取り扱いのある商品をお試しできる
「よき生活研究所」。わざわざで取り扱いのある商品をお試しできる

そこから会社のパーパスやミッション、ビジョンをきちんとつくり上げようと決意したんです。自分がいま外に出られないなら、もう一度勉強し直そうと思って。さまざまな講習会にも参加しました。最初はコーチングのセミナーをリモートで受けて、その後、経営のセミナーも受講して。

私は、勢いで創業してしまって、後付けで勉強しながらなんとかやりくりしてきたんです。だから体系的に経営を学んだことがなかった。それは悪い面でもあれば、良い面でもあると思うんですけど。自分で発想したり、想像することは得意なんですが、経営の道筋を順を追って学んでいれば、当たり前にたどり着く答えに、なかなか到達できなかったんですよね。

そうして勉強し始めたら、自分の駄目なところに気づいて、ビジネスモデルを転換しようと決意しました。多分それが2022年ぐらいのとき。ちゃんと社会的なインパクトを起こせる事業に再構築しなければならないと思いました。

ずっと、わざわざや問touというお店を運営していて、周りの人からは「遠くて不便だ」とか、「もっと近くにあったらいいのに」「もっと空いてたらいいのに」というお声を頂いていたんです。そこで、コンビニみたいな店舗が必要なんだと気づきました。

それで「わざマート」というコンビニのようなビジネスモデルを考えて22年〜23年に準備をしました。でもビジネスの大原則として、小さいサイズの会社なのに、事業を複合化して、多角化するのはNG行動なんです。効率が悪いんですよね。

長野県東御市にある「わざマート」。こだわりの食料品や日用品などが揃う
長野県東御市にある「わざマート」。こだわりの食料品や日用品などが揃う

わざわざも、問touもよき生活研究所も、みんな業態はばらばらです。オペレーションも違う、扱っているものも共通していない、そうすると物流のところでも破綻してくるという……。

染谷 分かります。自分のことを言われているようにグサっと(笑)。

平田 でも、それをやってるときは、いいことをしているんだっていう認識だったんです。わざわざ遠くから人に来てもらうというところばかりに価値を置いていた。

「経営」をおろそかにしていたんです。このことはすごく反省しましたね。そこで、「チェーンストア理論」に関する本を何冊も読みました。私、ビジネスで同じことを繰り返しやるのってつまらないことだと思っていたんです。でもこれらの本を読んで、気づいたんです。私は、繰り返しやることすらできてないじゃないかって。

例えば10店舗にチェーン展開したとしても、そのメソッドが100店舗、1000店舗に通じるメソッドなのかというと、必ずしもそうではない。そこまで見越して、研ぎ澄まされた経営の土台をつくらないといけないのに、1店舗でできた気になっていた。それではダメだと痛感しました。それが転機になりましたね。

だから、いまやり直している最中なんです。 毎週、経営チームとは、1週間に1回、2時間だけミーティングをして、そこで全方針を固めています。人事、採用、予算など、それぞれの目標を到達しているか、全部そこで決議して。今のところそれが一番良さそうで、しばらくこの形でやってみようかなと思っています。

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平田はる香

ひらたはるか
パンと日用品の店「わざわざ」代表取締役社長。2009年、長野県東御市の山の上に趣味であった日用品の収集とパンの製造を掛け合わせた店「わざわざ」を1人で開業。2017年に株式会社わざわざを設立した。2019年同市内に2店舗目となる喫茶/ギャラリー/本屋「問tou」を出店。2020年度に従業員20数名で年商3億3千万円を達成。2023年度に3・4店舗目となるコンビニ型店舗「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」を同市内に出店。初の著作『山の上のパン屋に人が集まるわけ』がサイボウズ式ブックスより出版。

染谷拓郎

そめやたくろう
2009年に日本出版販売株式会社(日販)入社。2022年より株式会社ひらく代表取締役社長。そのほか、ブックオーベルジュ箱根本箱を経営する株式会社ASHIKARI代表取締役社長、日販プラットフォーム創造事業本部副本部長を兼務。本のある場や文化施設の企画・実装・運営・経営を行う。令和5・6年度茨城県常総市まちなか再生プロデューサー。令和6・7年度JPIC読書アドバイザー養成講座講師

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