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Twitterで〈刺さる〉小説を書く方法【麻布競馬場×新庄耕 創作対談】

麻布競馬場の並外れた観察力

新庄 作品を読んでも、お話を聞いても思いますけど、麻布さんはとにかく観察力が凄まじいですね。現実で見聞きしたものを忠実に作品のなかに映し出している。大阪を背景にした作品も二つありますけど、実際に大阪へ行かれたんですか?

麻布 ええ、実は大阪のあるテレビ局のプロデューサーから、新番組をやるからその告知を僕のアカウントで、いつものTwitter小説の形でしてほしいって頼まれて。報酬もそこそこ貰えたので、じゃあ大阪に行くかって思い立って、泊まりがけで行きました。そこでもやっぱり、立ち飲み屋で知らない人の話を聞いたりして、取材してましたね。

新庄 え、小説家としてデビューする前ってことですよね? そんな仕事あるんだ。

麻布 たまにそういう案件が舞い込んでくるんですよ。

新庄 そこまで取材してるとは。

麻布 よく「こたつ記事みたいでキモい」って言われたりするんですけど、しっかり取材してます。例えば「高円寺の若者たち」も、担当の編集者さんにゴールデン街に連れていってもらったのがきっかけで生まれた作品です。僕、それまでゴールデン街ってまともに行ったことなかったんですよ。新宿で飲むときは歌舞伎町のど真ん中が多くて。
 だから、初めて行ったときは驚きました。いかにもな人がいっぱいいたんです。うわ、これ面白い! って思って、それから一ヶ月ぐらいゴールデン街に通いました(笑)。その流れで、高円寺にも行きました。僕にとって港区は普段の暮らしに入り込んでるから、特に新しく取材する必要はないんです。でも、早稲田、高円寺、ゴールデン街はこれまで触れたことがないので、一定の水準のリアリティに達するためには調査しなきゃダメだなって思ったんです。

新庄 いやー、早稲田の文化構想学部出身の人はイラッとするだろうなって思いながらあの作品、読みました(笑)。やっぱりそういう新宿あたりの盛り場の文化と港区の飲み屋の文化って違うんですか?

麻布 そうですね。ある時、ゴールデン街でオーバーサイズのTシャツに丸メガネのキングヌーみたいな男性に話しかけられたんです。「君、何やってる人なの?」って。あ、値踏みされてるって思ったんですけど、その人、ただのウェブ広告の会社の人間で、大手でもないし、特に賞を受賞したこともないような人だったんです。でも、自分には価値があると信じてるみたいなんですよね。ある種、独特な自信の持ち方によってなんとか自我を保ってるのが窺い知れたというか。そういう人間たちが、ゴールデン街のカウンターでお互いを妙に褒め合うんですよ。そうすればお互い傷つかないって知ってるんだと思います。

新庄 港区だとそういうのはない?

麻布 港区の人間は自分が偉いって思ってるから、持ってる棒で相手を殴りたいんです。ポケモンみたいなものだと考えるとわかりやすいかな。偉いおじさんたちが、定期的に自分の派閥の若いメンバーを集めて飲み会を開いては、連れてる若者たちをポケモンみたいにぶつけ合う。イケてる若者に好かれてる自分を再確認したり、見せつけ合ったりするわけですよね。

新庄 あー、わかる。カードバトルみたいな。

麻布 そうそう。「生きてる人間でデッキを作って友達に差をつけよう」みたいなね。あの世界観で生きてるのが港区です。

新庄 そういうところまで観察して作品にしてるんですね。麻布さんの作品がすごいのは、観察やヒアリングに基づくリアリティをありありと込めながら、物語を通して、どう生きるかとか、自尊心をいかに保つべきかみたいなことを考えさせるところですよね。読んでいて、こっちが試されている気になるというか。

麻布 やっぱり僕らの多くはどう足搔いても一番にはなれないじゃないですか。いまだに覚えてるんですけど、昔、電通かどこかのエントリーシートで「あなたがカテゴリートップになれるものはなんですか?」みたいな質問が出されたんです。それを目にして、頭を抱えました。僕が一番になれることなんて、この世界にあるわけないのに……って。上を見上げれば幾らでも優れた人間がいることは紛れもない事実で、だから結局、この街で僕は一番になれるものを見つけられるはずがない。じゃあ、どうやって生きていけばいいんだろう……みたいなことをそのとき一生懸命考えたんですよね。
 でも、それはいまも続いてる気がする。本当はそういうステージから降りることもできると思うんです。俺には家庭さえあれば幸せだから、とか、趣味があればそれでいい、とか。逃げ道はいっぱいあるはずなんですよ。なのに、そっちに逃げた時点で負けたことになるから、なんとか自意識を守るために降りることを自分に許さないって人もたくさんいるのを僕は知っています。そういう人たちを観察するのが僕は好きなんです。

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麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。慶応義塾大学卒業。
著書に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)、『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

新庄耕

しんじょう・こう
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年『狭小邸宅』ですばる文学賞受賞。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』など。最新刊は『地面師たち ファイナル・ベッツ』。

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