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人と人はわかりあえなくても、 おしゃべりできるし、 受け入れてもらえる【対談・青山ゆみこ×細川貂々】

アドバイスより、「聞かせてくれてありがとう」

青山 貂々さんは「ヘタ会」をやるようになって、少しは生きるのがヘタじゃなくなりましたか? むちゃくちゃヘタから、ちょっとヘタくらいになったとか?

貂々 いや、少しはヘタじゃなくなった、と思った時点でダメなんです。ヘタだって思っていると大丈夫。

青山 そうか、そうか。自覚していることが大事。

貂々 はい、そうです(笑)。もちろん自分が変化したところはあって、たとえば自分をあまり責めなくなりました。これは「凸凹会」が関係してると思います。自分に似た人がこんなにいたんだということがわかって、これでいいんだな、と思えるようになったんです。

青山 「凸凹会」は発達障害をテーマにした会ですね。「ヘタ会」では、貂々さんは進行役だからあまり自分のことをしゃべらないけど、「凸凹会」では、進行役兼、発達障害の当事者としても参加しているから、よくしゃべって面白いと参加者の人に言われるんですよね。

貂々 はい、言われました。「凸凹会」はみなさん、自分の素直な気持ちをしゃべるんです。たとえば「私、忘れ物が多いんですよ」と誰かが言うと、「そういう人が、周りの人の気分を悪くさせるんですよ!」と、ほかの誰かが言うとか。

青山 けんかにはならないんですか?

貂々 大丈夫です。

青山 なんで?

貂々 笑っちゃうからかな。時々言い過ぎる人もいるんですけど、でもそこは言っていい場なので大丈夫。

————けんかにならないのは、関係性のない場だからかもしれませんね。

青山 ああ、そうか。

貂々 そうですね。そしてお互い絶対わかりあえないから、しょうがないか、みたいな感じですね。

青山 「わかりあえない」境地に私はまだ辿り着けてないんだな……。まだまだ修業中の身ですが、会を始めたり、貂々さんとおしゃべりするようになって私が感じているのは、「聞く」ことの難しさであり、大切さです。長年ライターをやってきたので、私はインタビューのときはちゃんと聞くんです。仕事のときは聞けるんだけど、普段、友達としゃべったり、家族としゃべるときは、ぜんぜん聞けてなかったなあと。人の話を遮ってでも自分がしゃべる、ということをやってきた(笑)。でも「ゲンナイ会」で黙って話を聞いていると、話している人は安心するのか、どんどん話してくれるんです。深い話やこれまで出なかったような話が出てきて、聞くほうもさらに聞き入って、さらに話して……という経験を通じて、「聞く」トレーニングをさせてもらっています。

貂々 ゆみこさんの話を聞いて、私にとってもトレーニングになっていると思いました。というのは、息子の話を聞けるようになったので。息子がしゃべりだすと、「でも、それはさあ」とか「それはこうなんじゃない」って返してしまっていたんでけど、それをやめてひたすら聞くようにしたら、息子はずっとしゃべってます。やっぱり聞くのは大事です。

青山 私にとって聞くのが難しいのは、やっぱり何か言いたくなっちゃうんですよ。似たような経験をしていたらアドバイスしたくなるし、正しいかわからないけど私はこう思うよ、って伝えたくなる。アドバイスという名の否定や、的外れな意見になってるかもしれないとわかっているんですが……。貂々さんは私にアドバイスしたくなることはないですか?

貂々 ないです。

青山 私はあるんですよ、たまに。

貂々 そうだったんですね!

青山 性分なんでしょうね。とはいえ最近は何か言いたくなる以上に、「話してくれてありがとう」と思うようになりました。自分もそうですが、話す側は、重い話を聞かせてしまってすみません、ごめんなさい、ってなりがちですよね。そんなときに、聞かせてくれてありがとうが返ってくると安心するし、そうした反応は、アドバイス以上に私にとってありがたいことだと実感しています。

貂々 そうですね。話すのは勇気がいるんですよね。だから、勇気を出して話してくれてありがとうと私も思います。今日もありがとうございます。

青山 こちらこそ、まだまだ修業の身ですが、これからもよろしくお願いします。

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発達障害による困りごとや、生きづらさを語り合う場を主宰する細川貂々と、心身の不調をきっかけに、目的を持たない対話の場を作った青山ゆみこ。
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新刊紹介

青山ゆみこ

フリーランスの編集・ライター。1971年神戸市生まれ。
神戸松蔭大学非常勤講師。
著書に『人生最後のご馳走』『ほんのちょっと当事者』『元気じゃないけど、悪くない』、共著に『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』などがある。
地元神戸を中心に、「ゲンナイ会」「話を聞きます」など、対面やオンラインでの対話の場を主催している。

Twitter @aoyama_kobe

細川貂々

ほそかわ・てんてん
漫画家・イラストレーター。1969年埼玉県生まれ。
相愛大学客員教授。
『ツレがうつになりまして。』シリーズ、水島広子医師との共著『それでいい。』
シリーズなど著書多数。『がっこうのてんこちゃん』で第71回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞。
兵庫県宝塚市で「生きるのヘタ会?」ほか、さまざまな対話の場を主催している。

Twitter @hosokawatenten




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