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「捨てないパン屋」がアフター・コロナに目指すもの――田村陽至さん×井出留美さん「食品ロス」特別対談

変化や挑戦が歓迎されにくい日本の空気

井出 エネルギーについては、私は昨年、自宅の電気契約を「ハチドリ電力」に変えました。二酸化炭素排出量ゼロで自然エネルギー100%の電気が供給されるサービスで、電気代は大手電力会社より安いんです。

田村 自然エネルギーでの自家発電も、もっと身近に取り入れることができるはずなんですよね。ノルマンディのパン工房では、風力と太陽光の自家発電で超巨大な石臼が動いているのを見ました。でも日本のバッテリー屋さんとかミキサー屋さんに相談すると、「いやぁ、自然エネルギーでそういうのは難しいよ」と言われてしまう。実際に海外ではしっかり動いているのを見てきているから、日本でもできるはずなのに!と、悔しい思いをしてきました。蒜山ひるぜんは風が強いところなので、冬は風力、夏は太陽光でエネルギーを自活できたらと考えています。

田村さんは、36歳の時(2012年)に、仕事のやり方を見直すためヨーロッパ修行に出た
田村さんは、36歳の時(2012年)に、仕事のやり方を見直すためヨーロッパ修行に出た

井出 最近はミシュランも「ミシュラングリーンスター」という評価軸を設けて、味だけでなく、環境や社会の問題と真摯に向き合うサステナブルなレストランを評価しようという動きがあります。国内でも「日本サステイナブル・レストラン協会」が、レストランの持続可能性を審査する「サステナブル・レストランアワード」というのを行っていて、私もその審査員を務めたのですが、最終審査に残ったレストランの中には、100%持続可能なエネルギーでまかなっているところもいくつかありました。

田村 そうですよね。レストランなら、大きな重機を動かすわけではないので、やろうと思えばできそうな気はしますよね。スイスの、あるパン屋では、大きなガス窯でパンを焼いていたのですが、そのガスの熱で隣にある老人ホームの冷暖房をまかなっていました。コンプレッサーを通すことで、廃熱を冷暖房に使えるようになっていたのですが、その技術は岡山の会社のものだということでした。あと、スペインでは、ガス窯を改造して、環境負荷の少ない木質ペレットで動くようになっているものも見ました。じゃあ僕も改造してやってみようと、帰国後、日本の窯屋さんに相談したのですが、なかなか進まない。日本では「こういうのができるはずだ」と言っても、“前例”や“普通”と違うことをしようとすると「いやあ、無理でしょ」と嫌がられてしまうんですよね。「捨てないパン屋」も初めは無理だと言われましたが、実証したら、だんだん理解してもらえるようになりました。だから、ここの蒜山は、実験の場というか、「論より証拠」を見せる場所にしていけたらといいな、という野望もあります。

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田村陽至

たむら・ようじ
1976年広島県生まれ。祖父の代から70年続くパン屋3代目。大学で環境問題を勉強。卒業後、北海道や沖縄で山・自然ガイド、環境教育について修業。その後、2年間モンゴルに滞在しつつ遊牧民ホームステイなどを企画。帰国後の2004年、パン屋を継承した。
2012年には1年半休業してヨーロッパで修業し、店をリニューアル。2015年秋から一つもパン捨ててない「捨てないパン屋」として活動している。
10年間毎年、約40日間の夏期休暇を取り、様々な国々のパンや発酵を学ぶ。
研修生、見学者を沢山パン屋に独立させて、自慢するのが趣味。
2020年、岡山県蒜山に移住。
「ブーランジェリー・ドリアン」のHP●https://derien.jp/

井出留美

いで・るみ●食品ロス問題ジャーナリスト
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。政府・企業・国際機関・研究機関のリーダーによる世界的連合Champions12.3メンバー。
『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)、『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬社新書)、『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』(あかね書房)など著書多数。
食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

公式サイト●http://www.office311.jp/
Twitter●@rumiide

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