2021.11.28
「捨てないパン屋」がアフター・コロナに目指すもの――田村陽至さん×井出留美さん「食品ロス」特別対談
変化や挑戦が歓迎されにくい日本の空気
井出 エネルギーについては、私は昨年、自宅の電気契約を「ハチドリ電力」に変えました。二酸化炭素排出量ゼロで自然エネルギー100%の電気が供給されるサービスで、電気代は大手電力会社より安いんです。
田村 自然エネルギーでの自家発電も、もっと身近に取り入れることができるはずなんですよね。ノルマンディのパン工房では、風力と太陽光の自家発電で超巨大な石臼が動いているのを見ました。でも日本のバッテリー屋さんとかミキサー屋さんに相談すると、「いやぁ、自然エネルギーでそういうのは難しいよ」と言われてしまう。実際に海外ではしっかり動いているのを見てきているから、日本でもできるはずなのに!と、悔しい思いをしてきました。蒜山は風が強いところなので、冬は風力、夏は太陽光でエネルギーを自活できたらと考えています。
井出 最近はミシュランも「ミシュラングリーンスター」という評価軸を設けて、味だけでなく、環境や社会の問題と真摯に向き合うサステナブルなレストランを評価しようという動きがあります。国内でも「日本サステイナブル・レストラン協会」が、レストランの持続可能性を審査する「サステナブル・レストランアワード」というのを行っていて、私もその審査員を務めたのですが、最終審査に残ったレストランの中には、100%持続可能なエネルギーでまかなっているところもいくつかありました。
田村 そうですよね。レストランなら、大きな重機を動かすわけではないので、やろうと思えばできそうな気はしますよね。スイスの、あるパン屋では、大きなガス窯でパンを焼いていたのですが、そのガスの熱で隣にある老人ホームの冷暖房をまかなっていました。コンプレッサーを通すことで、廃熱を冷暖房に使えるようになっていたのですが、その技術は岡山の会社のものだということでした。あと、スペインでは、ガス窯を改造して、環境負荷の少ない木質ペレットで動くようになっているものも見ました。じゃあ僕も改造してやってみようと、帰国後、日本の窯屋さんに相談したのですが、なかなか進まない。日本では「こういうのができるはずだ」と言っても、“前例”や“普通”と違うことをしようとすると「いやあ、無理でしょ」と嫌がられてしまうんですよね。「捨てないパン屋」も初めは無理だと言われましたが、実証したら、だんだん理解してもらえるようになりました。だから、ここの蒜山は、実験の場というか、「論より証拠」を見せる場所にしていけたらといいな、という野望もあります。