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アナキスト・栗原康が「いきなり!ステーキ」を偏愛する理由

「いきなり!ステーキ」の秘策

 いったいなにを語るのだろう。ドキドキしながらテレビをみていると、社内会議のようす。ジッと苦悶する表情をみせていた社長がついにしゃべりはじめた。いまわれわれは苦境にさらされている。でも、安心してほしい。起死回生の策をおもいついたぞと。社員がかたずをのんで社長をみつめていると、社長はこういったのだ。「いきなりオイスター」。はあ? 社員が全員ポカンとしている。ステーキのお店に、むちゃくちゃおいしいカキもだせるようにするのだという。マジかよ。意味がわからない。
 だけど、ほんとにワンマンの社長さんなのだろう。だれもなにもいわずに、社長のいうことを真剣な表情できいている。でも、あまりのこの唐突な提案にあるまじめな社員がこう口火をきった。「なぜ、いまオイスターなのですか?」。まっとうだ。しかし、この質問に社長はこうきりかえした。「だって、オイスター食いてえだろう」。ガーン。瞬殺だ。その後、だれもなにもしゃべらずにこの会議は終了した。ヤバすぎだ。その後、じっさいに起死回生の策は実行され、何店舗かで「いきなり!ステーキ&いきなり!オイスター」がはじまった。テレビの取材はその最初の週までだったのだが、ざんねん。客入りはよくなかった。大失敗だ。あばよ、オイスター。

 それからしばらくして、また別のテレビ番組で特集がくまれていたのだが、こちらはひどかった。社長さんも番組によばれて出演していたのだが、テレビのコメンテーターが、社長さんはいちど売れて有頂天になって経済の論理をわすれてしまったようですね、いまあなたがやっていることは愚行ですよみたいなことをいいはじめる。うるせえよ。わたしにはそんなの戯言にしかおもえなかった。社長さんには好印象しかわかないのだ。「だって、オイスター食いてえだろう」だよ。最高さ。
 もちろん社員として、そんなひとにふりまわされるのは絶対にイヤだけど、はたからみているかぎり悪いひとにはおもえない。かれには経営者としてどうこうとか、そんなことは関係ないのだ。うまいものが食いたい。ただそれだけに徹している。さきに、わたしはカネにふりまわされた生活はしたくないといったが、まさにそういうことだ。なぜオイスターなのか、なぜそんなことをするのか。みんな経済の論理で考えていて、カネもうけのためになぜということしか考えていない。でも、そんな理屈は社長さんには通用しない。だって、ただ食べたいだけなのだから。圧勝だ。

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栗原康

くりはら・やすし 
1979年埼玉県生まれ。政治学者。専門はアナキズム研究。著書に『大杉栄伝―永遠のアナキズム』『はたらかないで、たらふく食べたい』『村に火をつけ、白痴になれ―伊藤野枝伝』『執念深い貧乏性』などがある。

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