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アナキスト・栗原康が「いきなり!ステーキ」を偏愛する理由

「いきなり!ステーキ」との出会い

 さて、本題だ。このコロナ禍になにを買ったのか。ほんとのところ、あまり買っていない。もともと、わたしは週六日、家にひきこもっているので、たいして生活がかわっていないのだ。だけど、いちどだけ贅沢をしたことがある。あの「いきなり!ステーキ」でいちばん高い肉を食ったのだ。この店との出会いは四年前にさかのぼる。わたしは週にいちど山形の大学の非常勤講師にいっていて、通勤往復で五時間半。かなり体力が消耗する。いつもヘロヘロになって帰ってくるので、たまには精をつけねばとおもって、大宮駅で降りて肉を食いにいった。それが当時話題の「いきなり!ステーキ」だ。
 三〇〇グラム、二〇〇〇円のリブロースステーキ。年収二〇〇万のわたしには大金だ。でも、あの肉を喰いちぎった瞬間をいまでもわすれはしない。プヒャ~~~、めちゃくちゃおいしい! 身体に力がしみわたってくる。食べたあとの身体のうごきが別人のようだ。肉のすごさをマジで実感してしまった。それでやみつきになって、月にいちど大学帰りに「いきなり!ステーキ」にいくことにした。しかし三か月目のことだ。朝六時におきて、きょうは肉を食うぞとウキウキしながらテレビをつけるとニュース速報。「大宮で人気ステーキ店が炎上」。見慣れたステーキ屋が燃えている。「いきなり!ステーキ」が火事で炎上してしまったのだ。ガーン。いきなりステーキがいきなり燃えた。

食べたあとの身体のうごきが別人のようだ   撮影:栗原康
食べたあとの身体のうごきが別人のようだ   撮影:栗原康

 それから数年、ショックで肉のことは考えられなくなっていたのだが、ある日、たまたまネット検索をしていたら地元、与野のイオンモールにも「いきなり!ステーキ」の店舗があることがわかった。いくしかない。かの女といっしょにいってみると、なつかしのあの店だ。ステーキもめちゃくちゃおいしい。でも、気になったのは客入りがすくないことだ。こんなにおいしいのに、なぜだろう。そうおもいながら帰宅して、テレビをつけると、ある番組で「いきなり!ステーキ特集」をやっていた。みるしかない。
 どうも「いきなり!ステーキ」、売り上げがめっちゃよかったので、ガンガン店舗を増やした。もともと首都圏のいいところだけでやっていたのだが、みんなにおいしい肉を食べてほしいという社長の意向で、郊外のファミリー向けの施設にも店舗を拡大した。与野だ。でも、家族づれはひとり二〇〇〇円の高級ステーキなんて高くて食べやしない。それで売り上げがガンガン悪化して、店舗がつぶれはじめたのだという。マジかよ、オレのせいじゃねえか。そうおもってみていたら、「ではいま社長はどんな対策を考えているのでしょう?」といってドキュメンタリータッチの映像にシフトした。がんばれ、社長さん!

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栗原康

くりはら・やすし 
1979年埼玉県生まれ。政治学者。専門はアナキズム研究。著書に『大杉栄伝―永遠のアナキズム』『はたらかないで、たらふく食べたい』『村に火をつけ、白痴になれ―伊藤野枝伝』『執念深い貧乏性』などがある。

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