2022.10.29
【対談】麻布競馬場と冬野梅子が考える「東京に来なかったほうが幸せだった?」
勉強も運動も得意じゃない子にとっての「カルチャー」
麻布 カルチャー的なところはずっとテーマとして描かれてるじゃないですか。デビュー作『マッチングアプリで会った人だろ!』から、深夜ラジオの放送作家が出てきたりとか、『まじめな会社員』のほうでもライターとか、デザイナーとか、YouTuberとか。カルチャーに対する憧憬みたいなものっていうのは、冬野さんご自身の根っこにある気持ちなんですか?
冬野 私自身、もともと運動とか苦手なんで、どうしてもインドアな趣味に行っちゃうんです。昔から漫画とか、高校生ぐらいになると映画とかが好きで。今は全然サブスクで見れるんですけど、私が10代の頃は、そういうのってTSUTAYAまで借りに行く。
麻布 そうでしたね。
冬野 映画館もつぶれちゃって、隣の県まで行かなきゃいけなくて。
麻布 結構本格派の田舎だ。
冬野 本格的に車じゃないとどこにも行けないみたいになって。電車も、隣の県まで行くのに1000円以上かかるし、10代にはちょっとハードルが高い感じでした。
麻布 僕が書いた本の中にも、足が遅い子が出てくる短編があって。田舎におけるスポーツができない子の学生時代を振り返ると、たぶんカルチャーに振れるか、勉強に振れるかの二択。もしかしたら、僕が書いたのは勉強に全振りした子たちで、冬野さんのほうはカルチャーなのかな。それは確かに違いとしてあるかもしれない。
冬野 そうですね。サブカルとかは、お金がなくてもたどり着ける場所かもしれない。間口がちょっと低いというか。麻布さんは運動はできたほうですか?
麻布 僕はごりごりの運動部だったんで。
冬野 えーっ、ちょっと裏切られましたね。本を読んで、運動できない人なのかなって思って。運動できない人の気持ちをちゃんと書いてるから、きっと運動ができない人かもしれない。共通点がやっと見つかったって、そのとき思ったのに(笑)。
麻布 裏切ってしまった(笑)。
25m走とか50m走のあの景色っていまだに鮮烈に覚えてて。走るの遅い子って徹底的に遅いじゃないですか。その子を待ってるときのみんなの冷たい目。
人類はもう走ることを克服したわけですよ。自転車を発明し、自動車を発明してるのに、なんでいまだに、走るの速い、遅いの価値観が残ってるんだと思ったし、運動会ってわけわかんなくないですか?
冬野 そうですね。私はアンチでした、生まれてからずっと。
麻布 中学、高校と野球部ばっかり優遇されるじゃないですか。
冬野 私も中学のとき美術部で、野球部の応援に駆り出されるっていう。不遇な時代ですね。
麻布 身体性がなぜあんなに重んじられてたのか、いまだにわからなくて。大人になると逆転するじゃないですか。高2ぐらいからヒエラルキー逆転するって話も確か漫画で描かれてた気がして。原石系の女の子が偉くなるって。
冬野 そう。高2から「顔」っていう感じでしたね。顔がかわいいほうがいいっていうふうに、社会の価値観が変わるんですよね、きっと。高2だと、ちょうどだんだん将来が視野に入ってくる。地元だと就職とか結婚とかっていうのが見えてくると、顔の重要性を感じ始めるのかもしれないですね。
麻布 地方は地方でルッキズムの責め苦はあるんですね。東京にも通底してるんだろうけど。
他人のコート、タグを見るか毛玉を見るか
冬野 女性のキャラクターが出てくるときに、お洋服のブランドとかすごく詳しく書いてありますけど、あれは調べて書くんですか?
麻布 わりと見ちゃうんですよ。冬だとお店入ったときにコートを預かったりするじゃないですか。ハンガー掛けるときとかに、どこの着てるんだろうとか、ちょっと見ちゃうんですよ。見ちゃいませんか?
冬野 見ますね。会社勤めが長かったんですけど、キラキラした他社の人が来てくれるときに、コートをよく見ると結構毛玉が付いてると安心してました(笑)。
麻布 やっぱり細部に宿りますからね。
冬野 そこまでは手入れしてないんだみたいな、安心感が。
麻布 かばんの裏っかわとか黒いと安心しますよ。あと、鋲が取れてたりするかばん、大好きだな(笑)。
冬野 大事ですね。親近感。