2021.10.17
紀州のアクリル王に直撃取材! コロナ対策で需要マシマシの「アクリル」、その意外な歴史と業界事情とは?
日本一分子量が高いカナセのアクリル
――大変失礼ながら、大企業というわけでもなく、地方の老舗中小企業であるカナセさんのアクリルが、なぜそれほど需要があるのでしょうか。
アクリルには、水あめ状になっているアクリル樹脂をローラーから押し出して作る「押し出し製法」と、2枚のガラスの間にアクリル原材料を注入し、硬化させて作る「キャスト製法」があります。
キャスト製法は、押し出し製法に比べて手作業による部分が多くなるので、大量生産が難しいというデメリットがある反面、サイズや厚みなど個別の需要に対応しやすいというメリットがあります。
ちなみに、生産量は押し出し製法の方が圧倒的に多いですが、アクリルのメジャーな用途である屋外の内照式看板には、耐候性などの関係で、ほぼキャスト製法のものが使われています。
押し出し製法による国内需要が輸入分も含めて約2万8000トン。キャスト製法が7000トン。
うちはキャスト製法を用いた独自の製法で開発した「カナセライト」というアクリル板を生産しており、キャスト製法の国内シェア5割以上を占めるトップです。
そして「カナセライト」の一番の特徴は、国内で生産されるアクリルの中でもっとも分子量が高いということです。
――分子量が高いとは?
分子量が高いことによって、強度や耐薬品性が上がります。また熱に強くなるため、穴を開けたり削ったり、キャスト製法のアクリルの中でもさらに切削加工の自由度が高まります。そのため、水槽やスポーツ用品に適しているというわけです。
アクリルを使った作品を作るアーティストの方に特別にご注文いただいたりもしています。
――コロナ以降、アクリルの需要が高まっていますが、事業にはどのような影響がありましたか?
感染が広がりだした2020年のはじめ頃から、アクリル板が飛沫防止の感染対策に有効だということで注文が殺到して、うちの生産量は昨年1.2倍になりました。1.2というと、大した数字ではないと思われる方もいるかもしれませんが、製造業にとって一気に20%の増産というのは、なかなか大きな数字です。
本来、飛沫防止パネルに使われるようなアクリル板の製造は、押し出し製法で大量生産している事業者さんに注文がいくものなので、うちのようなキャスト製法のみを行なっているところのメイン分野ではないんですね。
でも、実はコロナ前に、アクリル製造の最大手だった旭化成さんがアクリル事業から撤退していて、他の大手さんも需要の急増にそこまで対応しきれなかったという業界事情もあって、うちにおこぼれが回ってきたという感じです。
急きょ増産体制をとり、従業員も休日返上で対応してくれて、感謝しています。
うちはアクリル板自体を製造しているので、たとえばそれをスマートフォンケースにするといったアクリル製品の加工や製造は通常は行なっていないのですが、感染防止に求められるパーテーションはシンプルな作りなので、一部自社で製作してできるだけ早く納品できるようにしました。