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ドクターマーチンはなぜカッコいいのか。作業靴をファッションアイテムに変えた「スキンヘッズ」の文化史

ドクターマーチンはなぜカッコいいのか。作業靴をファッションアイテムに変えた「スキンヘッズ」の文化史

目立つ悪行

 特にパキスタン人移民への攻撃は熾烈だった。スキンズにとってジャマイカからの移民は尊敬に値したが、彼ら好みの文化を持たないパキスタンからの移民は、仕事を奪うだけの侵入者と映り、強い憎しみと蔑みの対象となったのだ。
 1968年の終わり頃からストリートで暴力をふるう者が目立つようになり、スキンヘッズ=無法者のイメージが強くなる。サッカー場での悪行から、スキンヘッズといえばフーリガン、という図式が成立したのもこの頃からだ。
 直接スキンヘッズをテーマにしたものではないが、1971年に公開され、カルト映画として後世に名を残すスタンリー・キューブリック監督による映画『時計じかけのオレンジ』は、近未来の世界を舞台にした設定ながら、ブーツとサスペンダーが目立つ登場人物のユニフォームチックなファッションや無軌道な暴力性など、明らかに当時世間を騒がせていたスキンヘッズを念頭に描かれたものだ。

『時計じかけのオレンジ』 (英題:CLOCKWORK ORANGE)DVD
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スキンヘッズからスウェードヘッズへ

 1969年になると、スキンヘッズはその粗暴な行状により、街の迷惑者扱いされ、社会から本格的に疎外されるようになる。暴力が目的ではなく、音楽とおしゃれとサッカーを愛するカルチャーとしてスキンズの道を選んだ者の多くは、社会からの敵視に耐えられなくなり、やがてその象徴である坊主頭をやめるようになった。社会に受け入れてもらうため、イメージアップをはかろうとしたのである。
 彼らは、夜のクラブだけではなく昼間も比較的きちんとした服装をし、髪は櫛でとかせるくらいまで伸ばすようになった。毛足の長くなった髪型が皮革のスウェードに似ていたことから、彼らはスキンヘッズではなく、スウェードヘッズと呼ばれるようになる。

スウェードヘッズのライフスタイル

 元来、しゃれ者のモッズ、スキンズから派生した集団だけに、スウェードヘッズも服装へのこだわりは相当に強く、人気のブランドはやはり、フレッドペリーとベンシャーマンだった。スキンズの頃と変わらぬハリントンジャケットを羽織り、またジーンズもよく穿かれていたが、ジーンズより小綺麗に見えるリーバイスのスタプレスは、スキンズよりも愛用者が多かった。
 スーツは特にグレンチェックや千鳥格子柄に人気が集まった。スーツの上からクロンビーコートを羽織り、そのトップポケットにはシルクのハンカチを挿すことが流行した。シャツはバタフライカラーと呼ばれる大きな衿のボタンダウン。タータンチェック、ウインドウペンチェック柄などのクラシカルなものを愛用した。色はやや濁ったパステル調のものが好まれた。ソリッドレッドやブルーなどのカラフルな靴下を履くことと、サスペンダーをやめてベルトをするようになったこと、ブーツをやめてブローグシューズを履くようになったことも、スウェードヘッズの特徴だ。
 音楽は相変わらずスカ、ロックステディ、レゲエやソウルミュージックが好み。しかし頑ななスキンズとは違い、スウェードヘッズはスウィートやスレイド、モット・ザ・フープルなど、当時人気が出はじめていたグラムロックも聴くようになった。
 1971年以降になると髪はさらに長く、衿が隠れるほど伸ばす者も現れ、呼び名はスウェードヘッズからスムーズへと変わっていく。
 そして、スタイルや聴く音楽だけではなく、生活そのものを変える動きもはじまる。彼らのアイデンティティだった肉体労働から足を洗い、ホワイトカラーの仕事に就く者が出てきたのだ。そうして、他の若者と同化して社会に溶け込んでいくとともに、スウェードヘッズ&スムーズは自然消滅してしまう。
 またイングランド北部に住んでいたスキンヘッズは、マンチェスターを中心に1970年代に盛り上がりを見せていたノーザンソウルの動きに共鳴し、ソウルボーイズやその発展形であるペリーボーイズに鞍替えする者も多かった。

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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