2021.8.14
ビッグシルエットはなぜカッコいいのか。 その原点は『風と共に去りぬ』にあった?〜「ズーティーズ」の歴史
ズーティーズのその後〜書き下ろし著者コメント
現在の若者ファッションの主流はビッグシルエット、すなわちジャストフィットよりも幾分、あるいはかなり大きめサイズの服をダボダボっと着るスタイルです。このブームは2015年秋頃からはじまり、落ち着きかけたり再び加速したりしながら、かなり長いスパンで継続しています。
全部で31パートに分けて書いた拙著『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』では、2番目のスタイルとしてズーティーズを紹介しています。1930年代末~1940年代前半のアメリカ・南カリフォルニアで発生したズーティーズとは、さながらストリートファッションにおけるビッグシルエットの原点のようなものです。
その後のビッグシルエットスタイルの系譜をざっと見ていきましょう。
エルヴィス・プレスリーのゆったりしたスーツスタイルを思い浮かべれば分かるように、1950年代のアメリカでトレンドとなったロックンロール~ロカビリースタイルは、ズーティーズの流れをくむビッグシルエット系でした。この流行は海を渡り、英国流ビッグシルエットスタイル、テディ・ボーイズが登場します。
1960年代のアメリカ・西海岸から発信され、瞬く間に世界の若者の間に広がったヒッピーもまたビッグシルエット系です。こちらはカウンターカルチャー、つまり窮屈な社会からの逸脱を目指す思想から、あえて締め付けの少ない服装を選んだと言われています。
1970年代前半、マンチェスターを中心に発生した、ノーザンソウルを愛好するソウルボーイズの間では、極端に幅広のバギーパンツが流行します。アップテンポなソウルミュージックに合わせてアクロバティックなダンスを披露するため、踊りやすいパンツが好まれたのです。このソウルボーイズの系譜は 1980年代後半のマッドチェスターへとつながっていきます。
1980年代のアメリカ西海岸のスケーターも、バギーパンツやビッグサイズのTシャツ、スウェットを好みました。彼らはスケートで激しいトリックを決めるために動きやすい服を選んだようです。そして1980年代後半から1990年代にかけて、ヒップホップミュージックの広がりとともに、ニューヨークのゲットーの黒人文化だったダボダボの着こなしも、世界中の若者の間で流行します。
『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』では、駆け足で紹介したこれらのスタイルひとつひとについて、しつこいくらいに詳しく語っています。少しでも興味を持たれた方は是非、本書を手に取っていただければと思います。
典型的なネットミーム(インターネットを通じて人から人へと模倣・拡散されていく行動・コンセプトなど)として大きく広まった今般のビッグシルエットブームが、アーカイブ化され“ストリート・トラッド”となったのちにはどのように語られるのか、それを見るのもまた楽しみなのです。
(2021年8月 佐藤誠二朗)
重版3刷決定! ストリートファッションの全てがわかる
佐藤誠二朗さんの『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』は、モッズ、ヒッピー、ノームコアなど、1930年代から現在に至るまでのストリートファッションを網羅した1冊。
ストリートスタイルの奥底に潜む反逆性とトラッド性の関係を探るため、その成り立ち、細かなスタイルの変遷を、多くの事例や画像とともに詳細に解説しています。ファッションスタイルだけでなく、時代背景や音楽などの情報も満載。
近代カルチャー史の必携としてファッションファンのみならず幅広い支持を受け、この度3刷が決定しました!
全31スタイルのイメージイラストは、全点、漫画家の矢沢あいさんによる描きおろし。史実に忠実に、流麗なタッチで描かれたストリートの少年たちの姿は圧巻です。
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