2021.8.14
ビッグシルエットはなぜカッコいいのか。 その原点は『風と共に去りぬ』にあった?〜「ズーティーズ」の歴史
本書は、「smart」元編集長の佐藤誠二朗さんが、モッズ、ヒッピー、ノームコアなど、ストリートスタイルの成り立ちや変遷を詳細に解説した1冊です。
このロングヒット重版を記念して、短期連載特集「なぜそれはカッコいいのか〜『ストリート・トラッド』でひも解くスタイルの原点」をお届けします。
ビッグシルエット、アウトドア、ドクターマーチンといった、今また多くの人々に支持されるファッションの源流となっているストリートスタイルについて、書籍『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』から抜粋して解説。著者・佐藤さんの書き下ろしコメントとともに紹介します。
全3回の特別企画です!
第1回目の今回、原点を探るのは、2015年頃からトレンドの主流となっている、ビッグシルエット(ルーズシルエット)スタイル。
実はその始まりは、1940年代のアメリカで誕生した「ズーティーズ」に遡るのです。
*書籍『ストリート・トラッド 〜メンズファッションは温故知新』から一部抜粋・再編集してお届けします。
底辺の若者たちが生んだ反逆のストリートスタイル
ヨーロッパでスウィングキッズとザズーが盛り上がっていた1930年代末から1940年代初頭にかけ、ジャズの本場アメリカでも、反逆のストリートスタイルが生まれていた。
このカルチャーの立役者は、まだ差別も根強く残っていた当時のアメリカ社会で生きる、アフリカ系黒人、そして戦時体制のアメリカ軍へ服務するため、南カリフォルニアへ移住してきたメキシコ人(いわゆるチカーノ)。つまり、社会の底辺に位置する非白人系の若者だった。虐げられた生活により、社会に対する不満をため込んでいた彼らは、そのはけ口として、派手な服装でキメこみ、夜な夜なジャズのリズムに酔いしれることで鬱憤を晴らした。彼らは縮れた髪の毛を薬品でまっすぐに伸ばす、コンクというヘアスタイルを好み、アヴァンギャルドなスーツに身を包んだ。
全体にダブダブのシルエットで、赤や黄色、ピンクなど目立つ色彩の布地を使うことが多かったその服は、ズートスーツと呼ばれた。一説では、ジョージア州のとある仕立屋がミュージシャンからの注文を受け、1939年公開の大作映画『風と共に去りぬ』でレット・バトラーが着ていたウエスタンスーツをヒントに考案したといわれている。
膝に届きそうなほど長い着丈で、大きな肩パッドが入ったジャケットと、極端に太く、足首にかけて細くなるダブダブのペッグトップパンツが基本スタイル。パンツの股上は深く、サスペンダーで胸下あたりまで吊り上げられていた。スーツに合わせるシャツやネクタイ、帽子も悪趣味といえるほど派手なものが好まれた。
ズートというのは、もともとは合いの手や掛け声を意味するジャズ用語ZOOTIE が語源で、それが〝イカれた〞とか〝先端的な〞を指すスラングへと転化した言葉である。そして、このスタイルを好む者はズーティーズと呼ばれるようになる。
1950年代から1960年代にかけて公民権運動を先導する黒人活動家のマルコムXも、1940年代当時は、ニューヨークのハーレムでギャンブルや麻薬取引、売春斡旋、強盗などに手を染める、典型的なズーティーズの不良少年であったという。