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新宗教にハマった母にネグレクト…漫画家・菊池真理子さんが気づいたアダルトチルドレンからの回復に必要なこと

新宗教にハマった母にネグレクト…漫画家・菊池真理子さんが気づいたアダルトチルドレンからの回復に必要なこと

7月5日、まきりえこさんの新刊『実家が放してくれません』が発売されました。
「毒親」や「家の圧力」に深く切り込むコミックエッセイです。

「よみタイ」連載時(2020年5月〜2021年4月)から、SNSなどで大きな反響を呼んだ本作。
単行本化にあたり、親との関係に苦しんできた経験をもつ文化人の方々も、様々な感想を寄せてくださいました。
そのメッセージを連続書評企画としてお届けします。

前回は、漫画家のおぐらなおみさんがイラストでメッセージを寄せてくださいました。

今回は、アルコール依存症の父と家族を描いた実録漫画『酔うと化け物になる父がつらい』や『毒親サバイバル』などで知られる漫画家の菊池真理子さんです。

(構成/「よみタイ」編集部)

人に話せるようになって救われた

 友人の話である。

 友人は幼い頃、ラーメンが食べられなかった。彼女の母は人に会うたびに「うちの娘、ラーメンが嫌いなの。珍しいでしょ?」と触れ回る。その母が、娘と2人でファミリーレストランに行くと、必ずこう注文するのだ。

「ラーメン、ふたつ」

 あなたはこの母親の心理がわかるだろうか。私はさっぱりわからない。ことほど左様に、毒親という人たちの行動は謎なのだ。

『実家が放してくれません』の主人公アサさんの母親も、ご多分にもれず謎だらけ。ひどい言葉を投げつけるわりに、新居に連日押しかける。留守中にいらん土産を置いていく。友達関係に勝手に乱入。不幸話をすると機嫌がいい。弟ばかりを可愛がる。エトセトラ、エトセトラ…。

 しかし親子関係にお困りで、誰かと語ったり、本を読んだりしている人は気づくだろう。これらは全部「あるある」だ。やってることは謎だけど、親たちのパターンは、どれも似ている。

 となると、だ。実は私たち子どもも、みんなちょっと、似ているのだ。私は、過干渉な親に悩まされるアサさんと違い、アルコール依存症の父と、新宗教にハマった母にネグレクトされて育ったAC(アダルトチルドレン)だが、自分にダメ出しをする脳内の声と会話しているところなんか、そっくりだ。アサさんの物語を読みながら、私のマインドBは「書評書くなら、ここメモれよ!」などとうるさい。

単行本『実家が放してくれません』より(©️まきりえこ / 集英社)
単行本『実家が放してくれません』より(©️まきりえこ / 集英社)

 もちろん「みんなもそうだから、あなたの悩みはたいしたことない」ということではない。それぞれの苦しみは、めっっちゃくちゃ大事に扱われなければならない。けれどパターンが似ているということは立ち直る方法も似ていて、ありがたいことにACの先人たちによって、それはちゃんと確立されているのだ。

 マンガの中では、アーくんママがその役を引き受ける。教育虐待サバイバーのアーくんママは、アサさんを気にかけながら見守り、ここぞのタイミングで「そのつらさ、白状しちまいな」と手を差し出す。いいぞ、アーママ! 私とマインドBが、惜しみない拍手を送ったシーンだ。

 つまりアサさんが立ち直るには、自分の気持ちを言える人たちとのつながりが必要だということ。つながりなんてこそばゆいが、声にならない会話を脳内で繰り返したところで、何も進みやしないのだ。そりゃ本音を言えたからって、すぐに全てが解決するわけじゃない。けれど「わかるよ」って聞いてくれる人の存在が、回復のスタート地点なのだ。

 私も、人生の長さぶん生きづらさを煮込んできたくせに、人に話せるようになったら救われてしまって、最近ちょっと気恥ずかしい。だからアサさん、それから不安な気持ちでこの本を手にとったあなたも、あんまり心配しなくて大丈夫。この道は拓けてるから。

(文/菊池真理子)

『実家が放してくれません』連続書評
●第1回 虐待サバイバーの菅野久美子さんが、ストリップ劇場で母と共有した「魔法」(菅野久美子さん/ノンフィクション作家)
●第2回 母からの虐待・絶縁の先に…。歌川たいじさんが「毒親から逃げていい」に抱いた違和感の正体(歌川たいじさん/小説家・漫画家)
●第3回 「逃げたあなたはがんばった」 おぐらなおみさんが、親を許せない人に伝えたいこと(おぐらなおみさん/漫画家・イラストレーター)
●第4回 新宗教にハマった母にネグレクト…漫画家・菊池真理子さんが気づいたアダルトチルドレンからの回復に必要なこと(菊池真理子さん/漫画家)
●第5回『ペリリュー』作者・武田一義さん描き下ろしメッセージ。魂に傷を負った人に届けたい、大好きな言葉(武田一義さん/漫画家)

断ちがたい親との関係に深く切り込むコミックエッセイ

エイトとアサは一軒家に住む若夫婦。
転職を繰り返す夫を心配しながらも、家を整えささやかな暮らしを営むアサ。
やがて待望の第一子を授かるが、孫の顔を見るためにと頻繁に訪ねてくる実母の言動にアサの苦悩は尽きず、幼い頃の記憶がよみがえる……。

「よみタイ」で大反響を呼んだ連載に、アサの母の生い立ちや実家の人々の謎が解き明かされる描き下ろしと小島慶子さんの巻末エッセイを加え、待望の書籍化。
コミック『実家が放してくれません』の詳細はこちらから

第1話はこちらからお読みいただけます→1.いい天気の日に「仕事見つかりそう?」は言いにくいものです

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菊池真理子

きくち・まりこ
埼玉県生まれ。漫画家。2017年、アルコール依存症の父と家族を描いた実録漫画『酔うと化け物になる父がつらい』が大きな話題となる。
他の作品に『毒親サバイバル』、『生きやすい』(1~2巻)、『依存症ってなんですか?』がある。
Twitter @marikosano_o

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