2021.7.17
母からの虐待・絶縁の先に…。歌川たいじさんが「毒親から逃げていい」に抱いた違和感の正体
もうひとつは、これこそ本書でど真ん中に据えて描かれているテーマだと思いますが、「逃げたあとも、呪縛は続いていく」ということです。
もちろん逃げることは重要ですが、親子関係で生まれた傷は、「逃げました」「よかったね」で大団円というものではないのです。実在する親から逃げたとしても、「自分の中にいる親」から逃げることはさらに難しい。自尊心を親から叩き潰されながら育つ中でインストールされてしまった自己イメージと、どう立ち向かっていくか。
むしろ、ラスボスはこっちのような気がします。
本書の主人公アサさんは、親から離れさえすればすべてから解放されると思っていましたが、立ち向かわねばならないものに気づき、苦悩の末、彼女のやり方で向き合っていきます。そして、より深くパートナーを理解していきます。そこから力強く大きな一歩を踏み出すために。彼女の気づきと変化は、私の心にもエネルギーを与えてくれるものでした。
彼女の葛藤がたくさんの人に共有され、「逃げていい」に加わる新たなフレーズが生み出されればいいと、心から思いました。
(文/歌川たいじ)
●第2回 母からの虐待・絶縁の先に…。歌川たいじさんが「毒親から逃げていい」に抱いた違和感の正体(歌川たいじさん/小説家・漫画家)
●第3回 「逃げたあなたはがんばった」 おぐらなおみさんが、親を許せない人に伝えたいこと(おぐらなおみさん/漫画家・イラストレーター)
●第4回 新宗教にハマった母にネグレクト…漫画家・菊池真理子さんが気づいたアダルトチルドレンからの回復に必要なこと(菊池真理子さん/漫画家)
●第5回『ペリリュー』作者・武田一義さん描き下ろしメッセージ。魂に傷を負った人に届けたい、大好きな言葉(武田一義さん/漫画家)
断ちがたい親との関係に深く切り込むコミックエッセイ
エイトとアサは一軒家に住む若夫婦。
転職を繰り返す夫を心配しながらも、家を整えささやかな暮らしを営むアサ。
やがて待望の第一子を授かるが、孫の顔を見るためにと頻繁に訪ねてくる実母の言動にアサの苦悩は尽きず、幼い頃の記憶がよみがえる……。
「よみタイ」で大反響を呼んだ連載に、アサの母の生い立ちや実家の人々の謎が解き明かされる描き下ろしと小島慶子さんの巻末エッセイを加え、待望の書籍化。
コミック『実家が放してくれません』の詳細はこちらから。
第1話はこちらからお読みいただけます→1.いい天気の日に「仕事見つかりそう?」は言いにくいものです