2020.4.3
スマホで注文・配達で誰にも会わずにアルコール漬けの日々
缶ビール1本からでも無料で配達することを謳い文句にしている酒販店の配達エリアは、東京都23区内を見事にカバーしています。高齢者は今後ますます増えていきますが、歳を取るとADL(日常生活動作)が低下してきますので、歩けなくなったり、行動範囲が狭まっていきます。そうした時代に1本から配達するというサービスは、現代の超高齢社会に非常にマッチしたビジネスモデルです。しかも、ネットを使えなくても電話でも呼ぶことができます。電話1本で来てくれるというのは、高齢者にとってはありがたいサービスでしょう。
私のような依存症専門クリニックで働くコメディカル(医師以外のスタッフ)は、連絡が取れなくなってしまった患者さんの安否確認のため自宅を訪問し、ときには危機介入(警察官や大家同伴のもと部屋に入ること)をすることもあります。もしかしたら、その方が自宅内で亡くなっているかもしれないからです。そこで自宅に急行した際に、酒販店の配達員の方とばったり玄関先で出くわしたことがありました。
向こうにとってはお客様ですが、こちらとしては患者さんですから、命を守らなければなりません。配達員の方に事情を説明して、「この患者さんはアルコール依存症の治療をしているので、今後はお酒を持ってくるのをやめてほしい」と伝えます。向こうも商売ですし、実際に注文されたから配達しているので、どこまで介入すべきかの判断は難しいところですが「患者さんは、お酒を飲んだら副作用が出る薬を飲まれているので」などと説得して、なんとかお引き取りいただきました。そうしたところで、患者さんがまた別の店に頼んでしまえば、いたちごっこです。
アルコール依存症者の飲酒が促進されやすい外的要因として、お酒の価格が安いことがあります。安い年金生活でも唯一楽しめる嗜好品がお酒ではないでしょうか。たばこがたびたび値上げをしているのに対し、お酒の低価格は維持されています。銘柄によっては水より安いお酒もあります。