2020.4.3
スマホで注文・配達で誰にも会わずにアルコール漬けの日々
●60代男性・Cさんのケース
60代の男性Cさんは、定年まで勤めた会社を退職、子どもはすでに独立しており、妻と二人きりの生活になりました。真面目な性格のCさんはサラリーマン時代は忙しく働き、子育てや家のことは専業主婦だった妻に任せきりだったので、定年後は、妻とゆっくり旅行にでも出かけたりして、悠々自適な年金生活を送ることを夢見ていました。
ところが、その妻が心筋梗塞で急逝。突然一人になってしまいました。それまで、いろいろと細やかなケアをしてくれていた妻のいない状態に放り出されてしまったのです。
大きな喪失感に加え、家の勝手がさっぱりわからず、生活もままならないので、孤独感とストレスから自然と慣れ親しんできたお酒に手が伸びました。もともと酒好きというわけではなかったのですが、現役時代に仕事の付き合いで飲むうち、長年の飲酒習慣である程度の量は飲めるようになっていました。一人家に取り残されたCさんは、これといった趣味もなく、特に親しい友人もいないため、外出することがなくなり、急激に飲酒量が増えました。
スーパーやコンビニに買いに行くのも億劫なので、酒はスマホを使って自宅まで配達してくれる酒販店に注文。「ビール1本」から頼める気軽さもあり、酒はもちろん、氷やつまみも注文すれば当日、早ければ1時間で配達してくれるので、なくなるたびにケースで注文していました。
最初は缶ビールでしたが、徐々に安くてアルコール度数の高い缶チューハイ、ストロング缶へと移っていきました。飲み始めると、食事をすることも忘れてひたすらストロング缶を飲み干し、500㎖の缶を次々と空にしていきます。気を失うまで飲み、気がつくと、リビングの床に失禁して横たわっていました。そんな日が続き、部屋は瞬く間に大量の空き缶で埋め尽くされ、ゴミ屋敷状態になりました。
やがて下痢による脱水症状を起こして、幻覚や幻聴のような精神症状があらわれるようにもなったCさんは、久しぶりに電話してきた娘がすぐには誰かわかりませんでした。呂律が回らず受け答えがおかしいと思った娘が家を訪れると、さんざん散らかり異臭のする部屋の中で空き缶に埋もれる父親を発見。すぐに病院に連れて行き、アルコール依存症と診断されました。