2021.2.19
「32時間自宅階段でエベレストの高さを登る」「55時間無睡眠ラン」など、コロナ禍にも負けないプロアドベンチャーランナーの壮絶トレーニング
誰もやっていないことを自分がやりたい
――これまで参加された中で特に思い入れが強いレースはどれですか?
本では第3章で書いた2015年のオーストラリア「ザ・トラック」ですね。
日本人初の参加ということもありましたし、自分の中で大きなステップとなった大会でした。
当時はまだアドベンチャーマラソン3大会目の参加で、経験も浅く、振り返ると、自分の中で確固たるものがなかったんですね。社会的な立場も不安定で収入もなくて、周りからも「この先どうするの?」ってよく聞かれていた時期で。
そんな不安もありながらの参加で、チャレンジ度や成長度が高い大会だったと思います。
実際、レース中に肉体的、精神的にも、一番厳しいところまでいった大会でした。寒さも疲労もあってメンタルもズタボロで、幻覚まで見えてくるほど、本当にギリギリ。「自分の体がどうなってしまうんだろう」「やばいんじゃないか」と、あそこまで追い詰められたレースは他になかったですね。
なんとか完走できましたが、ゴールした時は達成感より安堵の気持ちが大きかった。疲労より爽快感がまさって、元気よく叫びながらゴールできるようなレースもあるのですが、この「ザ・トラック」は本当に満身創痍でした。
――ものすごい不屈の精神というか、並々ならぬチャレンジ意欲ですよね。そこまで北田さんを突き動かすものは何なのでしょうか。
根底に「誰もやっていないことを自分がやりたい」という気持ちがあるんですよね。不安はあるけど興味は強い、というか、不安があるからこそ興味は強い。
――それは小さい頃から?
チャレンジ精神というより、好奇心は旺盛な子供だったかもしれません。
でも小さい頃はすごく引っ込み思案だったんですよ。人の前で喋るのは苦手だし、常に周りの目を気にしてしまう子供でした。
とはいえ、好奇心はあるので常に何かやりたくて。興味のあることに手を出しつつ、歳を重ねるうちに、引っ込み思案なところも少しずつですが変わっていったのかなと。
好奇心からやってみたことの一つが陸上であり、アドベンチャーマラソンでした。運動全般がすごく得意というわけではなかったのですが、子供の頃から体を動かすことは好きで、かけっこも得意だったので。